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2017 年度 実績報告書

ヒト腸内細菌叢における遺伝子水平転移を介した共同体ゲノム進化機構の解明

研究課題

研究課題/領域番号 16J02725
研究機関東京大学

研究代表者

石川 奏太  東京大学, 大学院理学系研究科, 特別研究員(PD)

研究期間 (年度) 2016-04-22 – 2019-03-31
キーワードヒト腸内細菌叢 / 遺伝子水平転移 / ゲノム機能進化 / 共同体ゲノム / 祖先形質復元 / 巨大系統樹
研究実績の概要

本研究の目的は、ヒト腸内細菌叢において共同体的にふるまうゲノム機能の進化機構を「機能遺伝子の水平転移」を軸に解明することである。このためには、それぞれの機能遺伝子がどのゲノムからどのゲノムへ水平転移したかを推測するだけでなく、転移した複数遺伝子の発現によって機能する代謝系などのゲノムの「形質」が系統樹上でどのように進化してきたように「見える」のかを推測することが重要である。そこで、本年度では前年度に引き続きOlivier Gascuel博士(パスツール研究所)との共同研究体制のもと、ヒト腸内細菌叢由来の大規模メタゲノミクスデータ解析を想定し、巨大系統樹上での高速・高精度な形質進化復元と進化シナリオ可視化のための研究を方法論的・計算科学的視点から進めた。本年度の研究成果としては、まず分子系統樹上での形質進化シナリオの推測と可視化を可能にする統合的なソフトウェア「PASTML」を開発し、これをオープンソースとしてGitHubサービス上にて公開(https://github.com/saishikawa/PASTML)した。また、同プログラムによる祖先形質復元を様々な進化プロセスを想定したシミュレーションデータに基づき評価したところ、既存の手法に比べ頑健性を有意に示した。また、Olivier Gascuel博士の研究室にて中心的に進められているヒト免疫不全ウイルスサブタイプC(HIV-1C)3,036株の進化疫学解析に本プログラムを適用することで、HIV-1Cの地理的拡散とそれに伴う薬剤耐性形質の獲得経緯を明らかにすることに成功した。現在、共同研究者とともに本成果を論文として投稿する準備を進めている。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究では、当初の計画として遺伝子配列データそれのみで分子系統樹を推測し、系統樹比較に基づき遺伝子水平転移の網羅的推測を行うことでヒト腸内細菌叢におけるゲノム機能進化機構を解明できると考えていた。しかし、研究初年度よりOlivier Gascuel博士(パスツール研究所)との共同研究を進める中で、ゲノム単位でのマクロな機能進化とその背景にある遺伝子単位でのミクロな水平転移との関係をより深く理解するためには、ゲノム機能という形質が細菌叢全体でどのように進化してきたように「見える」のかを解明することが重要であるとの着想に至った。新たな目標達成のためには、数千種(株)からなる巨大系統樹において高速・頑健な祖先形質復元を行い、さらに同系統樹上での複雑な形質進化シナリオを可視化するための手法を新たに開発する必要があった。そのうえで、本年度の成果として確立された手法では、系統樹上の各ノードにおいて確率的に予測された形質状態についてその予測精度を統計的に評価するBrier scoreを導入することで、従来手法に比べより頑健な祖先形質復元が可能となった。また、推測された祖先形質状態を系統樹上で集約し、それらがどのように遷移してきたのか(=形質進化シナリオ)を分かりやすく可視化するためのプロトコルも発案した。これらの手法を「PASTML」プログラムとして実装し、同プログラムを大規模HIV-1C由来データ解析に実践したところ、world-wideなHIV-1C株の地理的拡散とそれに伴う薬剤耐性変異獲得経緯が明らかとなった。以上の成果はヒト腸内細菌叢由来データの解析にも即座に有用であると期待できる。共同研究者との論文執筆作業も進んでおり、研究計画は順調に進展していると判断する。

今後の研究の推進方策

研究最終年度であるH30年度では、これまでの成果に基づきヒト腸内細菌叢由来大規模ゲノムデータに基づく遺伝子水平転移の網羅的推測および祖先ゲノム機能復元に挑戦する。まず公共データベースにこれまで蓄積された腸内細菌株のゲノムデータを取得し、高度に保存されるシングルコピー遺伝子からこれらの株の大系統関係を頑健に推測する。また、BLAST検索など予備解析から「水平転移候補遺伝子」を抽出するとともに、これらの遺伝子がどのようなゲノム機能に関係するかを示したアノテーションデータも取得する。まず、水平転移候補遺伝子の系統樹と、シングルコピー遺伝子の系統樹との比較を行うことで遺伝子水平転移の網羅的推測を行う。また、水平候補遺伝子のアノテーションデータとシングルコピー遺伝子系統樹を用い、PASTMLプログラムによってゲノム機能の祖先状態復元および進化シナリオの可視化を行う。以上の解析結果より、個々の遺伝子水平転移イベントが、よりマクロなレベルでのゲノム機能変遷にいつ、どのように関係したかについて照らし合わせることで、本細菌群におけるゲノム機能進化プロセスを明らかにする。

  • 研究成果

    (5件)

すべて 2017 その他

すべて 国際共同研究 (1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件) 備考 (2件)

  • [国際共同研究] Institut Pasteur(フランス)

    • 国名
      フランス
    • 外国機関名
      Institut Pasteur
  • [学会発表] 巨大ウィルス系統樹における祖先配列復元アルゴリズムの開発2017

    • 著者名/発表者名
      石川奏太, 田渕晶大, 朴泰祐, 稲垣祐司, 佐藤三久, 橋本哲男
    • 学会等名
      第9回「学際計算科学による新たな知の発見・統合・創出」シンポジウム -発展する計算科学と次世代の計算機-
  • [学会発表] A probabilistic model-based prediction of virus character evolution on large phylogenies2017

    • 著者名/発表者名
      Sota Ishikawa, TOmochika Fujisawa, Francois Chevenet, Wataru Iwasaki, Olivier Gascuel
    • 学会等名
      Mathematical and Computational Evolutionary Biology 2017
    • 国際学会
  • [備考] PASTML

    • URL

      https://github.com/saishikawa/PASTML

  • [備考] cytopast

    • URL

      https://github.com/saishikawa/cytopast

URL: 

公開日: 2018-12-17  

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