研究課題/領域番号 |
16J02791
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
苫名 悠 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | 絵巻 / 院政期 / 後白河 / 後三年絵 / 信貴山縁起絵巻 / 伴大納言絵巻 / 彦火々出見尊絵巻 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、《信貴山縁起絵巻》(朝護孫子寺)をはじめとする12世紀の絵巻諸作例について、それらがいかなる文脈において制作されたのか考察し、改めてその美術史上の位置付けを提示することにある。 本年度はまず《信貴山縁起絵巻》に関して、山水表現や人物表現の様式、景観年代等の分析によりその制作年代を再検討し、本作は12世紀第3四半紀に位置付け得るものであるという見解を持つに至った。その上で本作第2巻に登場する「延喜の帝」(醍醐天皇)に注目し、本作が醍醐天皇による治世を理想化する「延喜聖代観」を反映する絵巻であったと仮定し、その制作を企図する動機を有していた人物として、当該期において天皇親政を志向した二条天皇及びその側近の藤原伊通らを想定した。 また《彦火々出見尊絵巻》の制作背景をめぐって考察を行った。その結果として、皇祖神の神話を描いた絵巻である本作の登場人物たちには、当時後白河院と政治的な繋がりを有していた実在の人物たちが仮託されており、本作は後白河―高倉の皇統の正統性と優位性を視覚化するものであったという見解を提示した。以上の成果に関しては、美術史学会全国大会にて口頭発表を行った。 そして《伴大納言絵巻》に関して主題やモチーフの面から検討を行い、同時代の現存作例中におけるその特異性を指摘した。その上で、本作の特異性が生じるに当たっては後白河院が制作させた「後三年絵」が何らかの影響を与えていた可能性を想定した。以上の成果については、日本美術史に関する国際大学院生会議にて口頭発表を行った。 また本研究に関わる以下の作品を実見した。《信貴山縁起絵巻》、《伴大納言絵巻》、《彦火々出見尊絵巻》(明通寺)、《彦火々出見尊絵巻》(曇華院)、《粉河寺縁起絵巻》(粉河寺)、《地獄草紙》(奈良国立博物館)、《吉備大臣入唐絵巻》(アメリカ・ボストン美術館)、《後三年合戦絵巻》(東京国立博物館)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の目的や実施計画に基づいて研究を進め、複数の作例に関して新知見を提示して口頭発表を行っており、研究は順調に進展していると考えられる。また本年度、本研究に関わる主要な作品の多くを実見し得たことは、次年度以降研究を進める上で極めて有益なことであった。
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今後の研究の推進方策 |
《信貴山縁起絵巻》に関して、本年度の奈良国立博物館の特別展『国宝 信貴山縁起絵巻』に伴って重要な新知見が提示されており、今後はこれらを踏まえて考察を進めることが求められる。 《彦火々出見尊絵巻》に関しては、現在人物の姿態や他のモチーフに関して分析を行っており、『日本書紀』所収神話に淵源を有する本作の物語が絵画化されるに当たって、なぜこれらのイメージが選択されたのかという点を課題として、院政期における文学や信仰の様相を視野に入れて研究を進める予定である。この成果について『日本宗教文化史学会大会』(於京都女子大学、2017年6月24日)にて口頭発表を行うことが決定している。 また上記研究実績の概要において言及した、後白河院の下で制作された「後三年絵」は現存しないが、東京国立博物館には南北朝時代の制作と目される《後三年合戦絵巻》が所蔵されている。本作は「後三年絵」を参照して制作された可能性の高いことが先学によって指摘されており、本作の分析を通して、失われた「後三年絵」の姿をある程度復元的に考察することができると考えている。次年度は、かかる見通しを持って《後三年合戦絵巻》に関する調査研究を進める予定である。
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