研究実績の概要 |
微小管依存的な細胞内輸送は、モータータンパク質であるキネシンと細胞質ダイニンが協調して機能することで駆動される。しかし、陸上植物は細胞質ダイニン遺伝子群を進化の過程で失ったとされており、植物細胞内で両方向性の輸送がどのように遂行されているのかは不明であった。そこで、一歩だけならばマイナス端方向へ歩行する活性をもち、植物で重度に重複したキネシン-14遺伝子に焦点をあて、ヒメツリガネゴケを用いて解析を行うことで、植物ではキネシン-14がダイニンの機能を代替しているのではないかという仮説を検証した。 本年度は、キネシン-14の一種であるKCHに着目して研究を遂行した。現在までにイネやシロイヌナズナを用いたKCHの機能解析は行われてきたが、高い遺伝子重複が問題となりその機能の全貌は不明であった。ヒメツリガネゴケを用いてKCHの局在解析、表現型解析を行ったところ、細胞の先端に局在すること、核の輸送と細胞伸長に寄与することが明らかとなった。また、複数のトランケーションコンストラクトを使用したレスキュー実験から、KCHのモータードメインのC末端側にある領域が、核輸送には必要ないものの細胞伸長には必須であることを見出した。このことは、KCHが核輸送と細胞伸長という異なる細胞内現象に寄与する多機能なキネシンであることを示唆している。これらの成果は論文としてまとめられ、The Plant Cell誌に発表された(Yamada and Goshima, 2018)。 本年度を含むこれまでの研究によって、ヒメツリガネゴケに6種類存在するキネシン-14のうち、3種類がマイナス端方向性輸送モーターとして機能することが明らかとなった。本研究の結果が、独自に進化した植物の細胞内輸送機構の重要な知見となることが期待される。
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