研究課題
多くの生体触媒は特定の原料を効率的に目的の分子に変換する為に高い基質特異性を示す。この高い基質特異性により生体触媒の汎用性が制限されている。152ファミリーに分類されているシトクロムP450は過酸化水素を利用して長鎖脂肪酸を特異的に酸化するCYP152ペルオキシゲナーゼである。私たちは長鎖脂肪酸のカルボキシ基を認識するCYP152ペルオキシゲナーゼに短いカルボン酸を誤認識させ、脂肪酸とは構造の異なる非天然基質の酸化反応を触媒させる「基質誤認識システム」を報告している。本申請課題は活性部位の構造が異なる新規のCYP152ペルオキシゲナーゼを準備し、基質誤認識システムを適応することで非天然基質の位置、立体選択的な酸化反応を制御する事を一つの目標にしている。本年度は好熱菌由来CYP152N1が長鎖脂肪酸のカルボキシル基と結合することを結晶構造解析により確認し、長鎖脂肪酸のα-位を(S)-選択的に水酸化することを確認した。また、酢酸存在下で非天然基質の酸化反応を触媒する事を確認した。枯草菌由来CYP152A1はスチレンを(S)-選択的、スフィンゴモナス ・パウシモビリス由来CYP152B1はスチレンを(R)-選択的にエポキシ化してスチレンオキシドを生成したのに対し、CYP152N1はスチレンオキシドよりもフェニルアセトアルデヒドを優先的に生成した。さらに、グルタミン酸のカルボキシル基をヘム上方に配置したCYP152B1 A245E変異体が短いカルボン酸の添加を必要とせずに非天然基質の酸化反応を行う事を報告し、CYP152N1 A243E変異体も同等の性質を示す事を確認した。
1: 当初の計画以上に進展している
本申請課題では、CYP152ペルオキシゲナーゼに対して、位置、立体異性体を持つカルボン酸を誤認識させ、非天然基質の位置選択的な酸化半のを制御する事を第二の目標にしている。その為には、CYP152ペルオキシゲナーゼのカルボキシル基認識部位近傍の構造が酸化反応に影響を与える必要がある。既に、短いカルボン酸を代わりとしてCYP152B1に変異導入した245番目のグルタミン酸によってスチレンエポキシ化反応の立体選択性が反転することを報告している。本年度はCYP152N1 A243E変異体でも同との結果が得られる事を確認できたので、外部添加するカルボン酸の構造による反応場制御は可能であると考えられる。酢酸の代わりに乳酸やアラニン等の立体選択性を持つカルボン酸を用いて非天然基質の酸化反応を試したが、長鎖脂肪酸とはカルボキシル基のpKaが大きく異なる為に非天然基質の酸化反応がほとんど進行しなかった。位置異性体を持ち、置換基によるpKa変化が少ない安息香酸誘導体を用いた場合は、非天然基質を酸化が進行する事を確認した。また、既存のCYP152ペルオキシゲナーゼを鋳型とした非特異的変異導入の共同研究もスタートさせることができているので、当初の計画以上に進展していると考える。
今後の研究目標は、安息香酸誘導体を用いてCYP152ペルオキシゲナーゼの非天然基質酸化反応を制御する事である。最終的にCYP152ペルオキシゲナーゼの変異導入を用いた反応制御と組み合わせることで、高選択的な酸化反応系を構築する。
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Catalysis Science & Technology
巻: 6 ページ: 5806-5811
10.1039/C6CY00630B