研究課題/領域番号 |
16J02855
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
泉 久尚 東北大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | アストロサイトにおけるsigma-1受容体の役割 / AD モデルマウスのうつ様症状解析 |
研究実績の概要 |
Sigma-1 受容体のアストロサイトにおける機能については未だに不明な点が多い。従って、今回私は、アストロサイトにおける Sigma-1 受容体の働きについての検討をアストロサイトーマである U251MG 細胞を用いて行った。Sigma-1 受容体アゴニストであるSA4503 の処置により、Sigma-1 受容体過剰発現細胞における ATP の産生は有意に増加した。また、Sigma-1 受容体の活性化がミトコンドリアの伸長や多分岐化を引き起こすことを見出し、それと同時に、ミトコンドリアの分裂や融合に関連するタンパクであるMfn-1, Mfn-2 の発現量は有意に増加した。これらの結果は、アストロサイトにおけるSigma-1 受容体の活性化がミトコンドリア関連タンパク質の発現上昇を介してミトコンドリアの形態変化を促進することで、ATP 産生を上昇させることを示唆する。アルツハイマー病におけるミトコンドリア障害については既に報告があり、今回の結果は Sigma-1 受容体の活性化がその障害に対して保護的に働く可能性を示すものであると考えている。 うつ様症状の評価試験である forced swimming task を行い、 12ヶ月齢の雄性モデルマウスが有意な無動時間の増加を示し、うつ様症状を呈することを見出した。しかしながら、tail suspension task においては有意な無動時間の増加が認められなかったこと、また、12ヶ月齢ということもあり例数がまだ少ないことから、更なる検討が必要である。当研究室では Sigma-1 受容体アゴニストの強力な抗うつ作用について報告してきたことから、アルツハイマー病モデルマウスに認められたうつ様症状についても改善効果を持つことが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度の主な研究目的であるアミロイドβの産生・沈着に対する Sigma-1 受容体アゴニストの抑制効果の検討に対する知見を得ることはできなかった。しかしながら、行動試験によって 12ヶ月齢の雄性 AD モデルマウスにおいて周辺症状であるうつ様症状の発現を見出だした。その発現月齢を特定したことにより、アルツハイマー病の周辺症状としてのうつ病に対する Sigma-1 受容体アゴニストの治療効果についての検討を行うことが出来る。また、研究計画以外の部分では、アストロサイトーマを用いた検討を行うことで、 アストロサイトにおける Sigma-1 受容体の役割及びそのアゴニストの効果についての新たな知見を得ることが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
今年度行った検討により、AD モデルマウスがうつ様症状を呈することを見出したことから、Sigma-1受容体アゴニストの治療有効性について検討を行う。 研究目的の一つであるアミロイドβの神経毒性に対する Sigma-1 受容体アゴニストの保護作用の検討については、AD モデルマウスが有意な神経細胞の脱落を示さないことから評価出来ていない。非常に月齢を重ねたマウスにおいても神経細胞死は認めらないことからその評価を in vivo で行うことは難しいと判断し、まずは細胞系を用いた検討により評価を行う必要がある。 今回明らかとしたアストロサイトにおける Sigma-1 受容体の機能とそのアゴニストの効果についての検討を引き続き行う。
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