研究課題/領域番号 |
16J02893
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
大門 大朗 大阪大学, 人間科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | ボランティア / 災害 / 利他行動 |
研究実績の概要 |
本研究は、「被援助-援助」の変遷―助けられた経験が次の助ける経験につながっていく―過程のダイナミズムに着目し、ローカルな実践における分析(研究1)とマクロレベルでの研究(研究2)を通じて、利他行動を応用した前向利他ネットワークの実践理論を構築することを目的とし、具体例として災害後の「被災地のリレー」に着目した研究である。災害が頻発する中で、被支援者が支援者へと参入する過程をダイナミックに捉えた本研究は、支援される/するという枠組みを越えて、支援が広がる可能性に言及した重要な研究である。 研究1について:平成28年4月に発生した熊本地震発生直後から、ボランティアが集中する益城町の災害ボランティアセンターでフィールドワークを行い、災害後の緊急支援から中・長期的な支援の現状と問題について研究活動を行った。本調査からは、支援が連鎖していく一つのリレーの起点となるはずの被災地(益城町)において、ボランティアのほとんどが受け入れられず帰らされている現状などを記述し、支援の受け入れがスムーズになされていないことが明らかとなった。こうした受け入れの問題の帰結として、現地の職員対応に非難が集中しているが、研究の中で職員自らも被災している状況を記述した。こうした中で、被災者と支援者を分断する二分法の限界は、複数の災害という通時的なレベルで変容する「被災地のリレー」だけでなく、熊本地震被災地内での共時的なレベルでも認められることが明らかになった。 研究2について:本年度は、1)災害ボランティアの生起・消滅に関する基礎的なシミュレーションモデルを作成した。2)日本全国を対象とした計量分析から、「以前災害助けられた経験」が東日本大震災後の支援者にポジティブな影響を与えていることを明らかにした。更に、1)、2)の結果を総合し、3)将来の災害で支援の連鎖が見られた場合のシミュレーション結果をまとた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、熊本地震が発生したことにより、大幅に研究の予定が変更することになった。しかし、結果的に、災害後の支援がリレーのように連鎖していくダイナミックスに関する本研究においては、こうした災害直後からの実際の支援が生起・収束していく場面をリアルタイムで記述することで、マクロレベルの計量調査・シミュレーションでは浮かび上がらない課題や現場の状況を調査、実践することができた。こうした被災者が災害ボランティアの受け入れを行わなければならないというねじれた状況は、社会全体で災害救援を考える際に考えるべき重要な課題であると考えられ、本研究における事例研究が大幅に進展した。 本年度は、上述した研究1に加え、災害後のマクロレベル研究(研究2)についても、積極的に結果をまとめ、その発信をおこなった。具体的には、シミュレーションに関する和文論文1報(査読あり・受理済み)、経済的な分析による分担執筆著書1報、統計分析・シミュレーションに関する英文論文2報(査読有り)として、国際学会(イラン、アメリカ、日本)4報、セミナー(イギリス、アメリカ、台湾)3報の発表を行い、こうした成果を発信した。 以上のような理由から、本研究は当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
第一に、本年度は重点的に熊本地震を調査し、詳細な事例検討をすることができた一方で、日本における社会的な課題を明らかにした一方で、国内におけるその他の災害事例の検討、海外での文化や社会システムの比較検討などが充分でなかった。平成29年度においては、国内での他事例を検討するとともに、国外(アメリカ)での比較検討を進めていく。なお、平成29年9月から、Visiting Scholarとして、デラウェア大学災害研究所(アメリカ)での1年間の滞在研究の受け入れが正式に決まっている。 第二に、ミクロレベルの事例検討やマクロレベルの分析は進みつつあるものの、これらのミクロ-マクロを統合する理論化の段階にはまだ、進んでいない。どのように理論化を進めていくかについては、基本的なデータ収集やその比較などを進めていくことが前提となるため、平成30年度での大きな課題としているが、そのための準備段階として、災害と共生に関する研究会、マルクス思想・経済に関する研究会、思弁的実在論と社会構成主義に関する研究会など実践だけでなく理論に関する研究会に積極的に参加するようにしている。29年度においても、こうした理論的な側面を強化するとともに、最新の理論についても国内外で摂取するように心がける予定である。
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