研究課題/領域番号 |
16J02893
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
大門 大朗 大阪大学, 大学院・人間科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | ボランティア / 災害 / 支援 / 利他行動 |
研究実績の概要 |
平成29年度の研究は、特別研究員(DC1)での研究「前向的な利他ネットワーク実践理論の構築――災害時の被災地間連携から」に向けた以下の研究の2年目にあたるものである。3年間の総合的な研究は、「被援助-援助」の変遷―助けられた経験が次の助ける経験につながっていく―過程のダイナミズムに着目し、ローカルな実践における分析とマクロレベルでの研究を通じて、利他行動を応用した前向利他ネットワークの実践理論を構築することを目的とし、具体例として災害後の「被災地のリレー」に着目した研究である。 本年度の前半では、昨年度に実施した熊本地震後の被災地における支援の受け入れの現状について研究成果を学会で発表し、論文としてまとめた。「被災地のリレー」という贈与が連鎖する現象について、実践を行いながらも、被災地でのそうした支援の受け入れがうまくいっていない状況を鑑み、そうした実際の事例を具にまとめることに務めた。 また、後期からは、デラウェア大学Disaster Research Centerに客員研究員として滞在を開始し、特に、アメリカにおける災害直後の対応と、草の根的な災害ボランティアの状況について文献渉猟を中心として研究を進めた。また、デラウェア大学においては、東日本大震災7年目にあたる2018年3月に日本人研究者を招きシンポジウムを行うなど、日米の災害研究・実践の交流も進めた。 また、東日本大震災後、「被災地のリレー」がボランティア行動だけでなく、寄付や物資の支援といった様々な利他行動にポジティブに働いていることを実証した。また、そうした支援のリレーが広がりうる可能性について、セル・オートマトンを用いたモデルを改良し、支援が大きく広がる閾値があることを示した。実際の被災地ではうまく受け取られていないことについて、研究1を踏まえながら議論し、その可能性について事例研究から具体的に示すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本特別研究員の本年度の研究は、期待以上の進展があったといえる。本年度は、被災地におけるフィールドワークとシミュレーションといった質的・量的研究を織り交ぜた高度な研究を進めることができている。支援の連鎖する現象が実際に起こっているという実証研究・シミュレーション研究の結果に留まらず、実際の被災地においては被災者が複雑なジレンマを抱えながら支援の調整を行っているという記述を行う中で、より具体的に踏み込んだ災害後の支援の問題を示すことができている。また、利他行動から哲学的な議論にいたるまで理論的な研究も積極的にすすめており、3年間の成果を体系的にまとめる基礎もできつつある。こうした中でも、特に本年度は、きちんとその成果をまとめ、3本の査読論文の受理、国際学会での発表など堅実に成果も挙げている。こうした中、年度途中からは、Visiting Scholarとしてデラウェア大学に長期滞在し、国内外の比較研究を進めているが、東日本大震災に関するセミナーを開催するなど、研究活動だけでなく、新たなネットワークも積極的に獲得している。このように、本特別研究員の本年度の研究は、当初の期待を上回る成果をあげたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
現在の進捗状況:日本国内での研究成果をまとめ、アメリカでの研究を開始し、国際間の比較を進めた。支援のリレー現象については、その存在を実証し、またそのシミュレーションで一定の可能性があることを示すことができたものの、熊本地震後の社会ではそうした支援を含んだ、支援の受け取りの問題が強く残っていることが改めて問題となった。こうした背景から、災害直後のより良い支援について理解するために、アメリカと日本における支援の違いを把握する研究を進めることができた。 こうした研究の成果は、「被災地のリレー」の実証を示した英文論文(査読あり・受理済み)、「被災地のリレー」のシミュレーションとその可能性を示した英文論文(査読あり・受理済み)、熊本地震後の災害ボランティアセンターを中心とする受け入れの問題を記述した和文論文(査読あり・受理済み)としてまとめた。また、国際学会1報、シンポジウム(アメリカ)1報の発表を通じ、研究成果を合わせて発信した。
課題と今後の対策・方針 平成30年度は、研究の最終年度でもあり、2年間で行ったミクロレベルの研究1とマクロレベルの研究2をまとめ、理論化を行う研究3を進めていく予定である。 まず、研究1・2の今後の課題として、アメリカにおける支援の研究をまとめ、日本との違いから新たな支援の枠組みについて更に研究を深め、現場で適用可能な提言を行う必要がある(研究1)。また、事例の具体的な問題を踏まえながら、より可視的にわかりやすい地図上のモデル、ネットワークモデルを用いたもの改良しながら、より実践的なシミュレーションを完成させる必要がある(研究2)。平成30年度においても、事例研究から、マクロな実証・シミュレーションまで包括的に研空を進めるとともに、国内外を問わず最新の理論・研究を摂取するように心がける予定である。
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