研究実績の概要 |
骨代謝の恒常性は,骨形成と吸収によるカップリングによって維持されており,そのバランスが崩れることから,骨粗鬆症などの病態に至るものと考えられている.しかしながら,このカップリングのメカニズムは未だ十分に解明されていない.申請者らは,遺伝子解析から,複数のカップリングファクターの発現がNF-kBの制御を受ける可能性を見出し,さらにNF-kBの制御因子の一つとしてAtm遺伝子に着目した.本研究は,破骨細胞特異的ATMノックアウトマウス(以下AtmCtskマウス)の表現型解析を行い,カップリングの機構解明,カップリングを標的とした骨粗鬆症治療の確立を目的としている.これまでにその表現型解析を行い,以下の結果が得られている. 1.破骨細胞分化に伴いATMが活性化する,2.AtmCtskマウスは骨量減少を来たす,3.AtmCtskマウス破骨細胞はアポトーシス抵抗性を有する,4.AtmCtskマウス破骨細胞はNF-κB活性の亢進を来たしている 以上の結果より,破骨細胞の分化に伴い活性化するATMがその寿命を負に制御しているということが明らかとなった.本研究成果は,整形外科および骨代謝領域における学会で発表され,2016年9月にScientific Reports誌に受理された.ATMが破骨細胞の寿命を抑制する,という結果から,AtmCtskマウスの骨量減少メカニズムはATM欠損に伴う,破骨細胞活性・骨吸収の相対的な上昇に起因するものと考えられた.今後は,ATMが(破骨細胞において)どのようにして活性制御されているかと中心に,骨量減少との関係性を明らかにしていくことを目指している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究において,交付申請時の実施計画としては 1.破骨細胞培養上清による骨形成への影響の検討 2.NF-kB活性の評価 3.破骨細胞アポトーシスの評価 4.マイクロアレイを用いた網羅的遺伝子比較検討 の4つを計画していた.このうち2~4は実施済みであり,1についても培養上清の調整手法を確立済みである.表現型解析から得られた結果は当初期待していた結果の方向性とは異なっているが,おおむね予定していた計画を遂行できたと考える.
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度の実験結果から,破骨細胞の分化に伴い活性化するATMがその寿命を負に制御しているということが明らかとなったが,その詳細なメカニズムは不明であり,老化と密接な関係性をもつATMの機能制御メカニズムを明らかにすることは,骨粗鬆症の根本的な病態解明につながるものと考えている.したがって引き続き,1.破骨細胞培養上清による骨形成への影響の検討,を行うと共に以下の実験を検討している.2.加齢に伴うATM活性の評価,3.活性酸素を中心としたATM制御因子の解明(破骨細胞における評価を中心に),4.(上記3で制御因子が見つかれば,)その因子をマウスへ投与,骨量への影響を検討する.
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