本研究ではピロリ菌CagAにより細胞老化が促進される点に着目し、CagAの長期発現が分泌形質獲得に寄与するという作業仮説のもと、CagAによる胃上皮細胞の分泌形質獲得機構、ならびに細胞周囲の環境変化が発がんに及ぼす影響の解明を目的としている。これまでに、CagA発現細胞由来の培養上清が細胞増殖を有意に促進することを明らかにし、この現象の責任分子の同定するため、DNAマイクロアレイによりCagA発現細胞においてmRNAの発現増加が見られた複数の分泌タンパク質を候補分子とし、その細胞増殖誘導能を検討した。本年度は、細胞増殖を促進した候補分子のうち、これまで細胞増殖を促進する作用が報告されていなかった分子に着目し、細胞増殖を担う下流シグナル経路を特定した。また、本シグナルに対する細胞増殖応答性が胃がん細胞株間で異なることを見出し、本シグナルが細胞増殖促進的に機能するか否かはTP53変異の有無に起因することを明らかにした。胃がんにおいてTP53遺伝子の変異は高頻度に認められることから、本現象はTP53変異をもつ細胞の増殖を亢進することで、がん関連遺伝子の変異誘発をさらに促し、胃がんの発症および進行に寄与することが推察される。
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