研究課題
二年目にあたる本年度は以下の(1)~(3)を行い、予定していた餌種の動きと海水温の関係、および餌の大きさの推定に関する研究成果を上げた。(1)先年度に続き、アザラシの頬に装着した小型ビデオカメラよりヒゲの動きを捉えた。データを増やし、餌のいる深度(200m以深)でヒゲを「アンテナ」のように前方に伸ばすことで、魚が発生する水流を感知・追跡し餌を採っている、という結果をより強固なものにした。本研究結果は国際バイオロギングシンポジウムで口頭発表し、現在国際誌への投稿に向け執筆中である。(2)アザラシの頭に装着した小型ビデオカメラにより、餌である魚の動きに着目した。その結果、アザラシは深い深度(800m以深)で動きの鈍った大きな魚(イレズミコンニャクアジ)を採っていることが明らかになった。動きの鈍っている原因は深い深度での低水温・低溶存酸素濃度であると考えられる。アザラシにとっては①餌が大きい、②餌の動きが鈍いので餌摂りに多くのコストを使用する必要がない、という二点で深い深度への潜水コストを相殺できる、というメリットがあることを示唆した。実験・解析を共同で担当した本研究成果は共著論文として国際誌に受理された。(3)顎加速度計から得られたデータを用いて捕食した餌サイズを推定する手法を開発した。具体的には、実験環境下(飼育アザラシ)において加速度生波形から重力成分を取り除き動的加速度を取得、動的加速度の大きさ(最大値、および絶対値の積分値)が餌サイズと正の相関があることを発見した。そして、この手法を野生環境下(野生アザラシ)に適用し、深い深度(1000m以深)でより大きな餌を食べていることを示唆した。深い深度への潜水は余分なコストがかかるが、大きな餌を採っていることでそのコストを相殺していると思われる。実験・解析・執筆を担当した本研究成果は主著論文として国際誌に投稿、現在査読中である。
2: おおむね順調に進展している
特別研究員として2年目となる平成29年度、本研究計画達成のためのデータ取得を完了した。具体的にはカリフォルニア大学と共同でアザラシに小型ビデオカメラを装着し追加データを取得、データの信頼度をより強固なものにした。そして、アザラシが感覚器であるヒゲを使用し暗闇(夜や深海)で餌を採っているということを野外で初めて明らかにした成果を、国際学会で発表した。本研究結果は近日中に国際学術雑誌への投稿が期待できる。また、ビデオデータから深い深度(800m以深)でアザラシが動きの鈍った大きな魚を捕食していることを明らかにした。動きが鈍っている原因は、深い深度での低水温・低溶存酸素濃度が原因であると考察した。実験・解析を共同で担当した本成果は共著論文として国際誌に受理された。最後に、顎に装着した加速度計のデータを解析、加速度波形により捕食した餌サイズを推定する手法を開発・提案した主著論文を国際誌に投稿、現在査読段階にある。2年目で取得・会得したデータは3カ年計画の本研究遂行・研究課題達成に有益であると考えられ、今後の研究展開にも期待が持てる。以上のように、2年目となる平成29年度はおおむね順調に研究が進展したと認められる。
昨年度まででデータ取得を完了したことから、最終年度となる本年度は解析・論文執筆を集中的に行う。具体的には、まずは本年度の初期段階で、現在査読中である論文(餌サイズを顎に装着した加速度計で推測するシステム開発)の受理が期待できる。それと並行して、アザラシの頬に装着したビデオカメラから得られた動画解析を完了させる。具体的には、アザラシが感覚器であるヒゲを使用し泳いで逃げる魚を食べている、ことをデータから裏付ける。そして、餌(魚)の逃避行動とアザラシの追跡行動を「海水温」という観点に着目、つまり、海水温が恒温・変温動物間の捕食者ー被食者関係に及ぼす影響に着目する。仮説では、水温が下がるほど餌の逃避行動が遅くなり、アザラシは餌を摂りやすくなるはずである。本仮説に関する論文は、昨年度共著論文として発表しているが、本年度は異なるデータセットでも同様に仮説が検証できるかどうか確かめ、主著論文として投稿・受理を目指す。以上をもって、3年間で共著者論文1本、主著論文2本の受理が達成されると期待でき、そして最終的には(1)餌サイズの推定システムの開発(2)海水温が恒温・変温動物間の捕食者ー被食者関係に及ぼす影響評価、という本研究の達成が期待できる。
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Ecology and Evolution
巻: 7 ページ: 6259~6270
10.1002/ece3.3202