私たちの腸管は栄養を吸収するとともに、外来の微生物やウイルスおよび腸内常在細菌に感染するリスクに常にさらされている。ヒトの腸管において、最前線の防御膜となるのが粘膜層であり、ムチンにより構成される。昆虫においては、囲食膜とよばれる構造体が相当する。囲食膜は、腸管内腔を管のように覆っており、糖タンパク質やキチンから構成される。当研究室のショウジョウバエを用いた研究により、架橋酵素であるトランスグルタミナーゼ(TG)が、囲食膜形成に関与することが判明している。TGによる架橋反応が囲食膜形成や生体防御の機能にどのように関与しているのか、またTGの基質タンパク質の機能を明らかにする目的で研究を進めた。 囲食膜を構成するタンパク質はペリトロフィンとよばれるファミリーで、蛾や銀バエなどから同定されている。ショウジョウバエのPeritorphin-15b (Pin-15b) について遺伝子をノックダウンしたところ、感染抵抗性が下がることが判明した。また、Pin-15bは、囲食膜構成することが免疫染色により分かり、Pin-15bをノックダウンしたハエにおいては囲食膜の透過性が低下することが明らかとなった。Pin-15bの組換え体を大腸菌により調製し、TGの基質であることを確かめた。また、Pin-15bをノックダウンしたハエは、体長、体重が増加し、脂質やタンパク質が増えていた。代謝に関わるインスリン様ペプチドを調べてみると、mRNAレベルで増大していた。 本研究結果をまとめると、Pin-15bは、ショウジョウバエの囲食膜構成タンパク質であり、TGによる架橋を受けることが分かった。また、Pin-15bノックダウンハエは、体重増加が認められ、インスリン様ペプチドが過剰に産生されており、代謝との関連性が示唆された。
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