研究課題/領域番号 |
16J03023
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
内田 康太 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | 立法 / 共和政ローマ / コンティオ / 法案 / 元老院 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、共和政期ローマの立法過程を分析することで、当該国家の意思決定のあり方について、その一端を明らかにすることにある。平成28年度は、個別事例の分析を研究の主軸として、共和政ローマにおける立法の特徴を考察した。なかでも、ローマ国民の提訴権をめぐって提出されたクロディウスの法案(前58年)は、ローマの立法過程を理解するうえで重要な事例であることから、詳細な検討を行った。その結果として、元老院の意思が法案の帰趨に対して強い影響力を有していたという認識を得るに至った。これは、共和政末期の立法に関する先行諸研究が、政治家個人、あるいは、国民の動向に重点を置いた研究を展開してきたことに鑑みて、当該時期の立法過程の研究に新たな視座を供するものとなる。 本年度の個別事例分析は、すでに一定の成果が得られていた研究対象について考察を精緻化することにも寄与した。その成果となるのは、コンティオと呼ばれる政治集会が立法過程において果たす機能を再検討した研究報告である。報告では、政治家の弁論とそれに対する聴衆の反応が法案の行方を左右したとする、近年定説化しつつある見解に反論を提示した。また、報告に対する質疑応答を通じて、共和政ローマの政治についての専門的な助言に加え、他分野の知見についても触れることができた。 さらに、2017年2月末から3月初めにかけて、英国のInstitute of Classical Studies付属図書館にて研究調査を行い、日本国内では入手不可能な文献を利用する機会を得た。とくに、膨大な研究の蓄積をかかえる共和政期ローマの立法という研究分野にあっては、最新の研究を参照することだけでなく、19世紀以前の研究を渉猟することが重要な課題となる。この点において、当該機関における在外研究は、双方の課題を遂行する一助となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は、研究計画に従って、共和政期ローマの立法に関連する個別事例研究を遂行した。とくに、検討の主眼として想定していた可決された法案だけでなく、撤回ないしは否決された諸法案にまで分析対象を拡大して考察を加えるに至った点において、本研究課題は予定以上の進捗状況にあるといえる。また、2017年2月から3月にかけて行った英国での研究調査では、多岐にわたる資史料を利用することで研究を進展させた。研究の発表については、個別事例分析から得られた知見をもとに、コンティオと呼ばれる政治集会に関する研究報告を行い、共和政ローマの立法過程に見出される特質の一部を明らかにすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、個々の事例分析から得られた考察を統合して、共和政ローマという国家における政治的意思決定のあり方を明らかにすることを目標とする。従って、より理論的な側面から共和政期の立法過程、さらには、国家体制の特質に関して考察を深める予定である。また、研究の遂行に際しては、前年度と同様に、国内外の研究機関を利用する計画である。加えて、平成29年度は、学会報告や論文執筆・投稿の機会を増やすことで、平成28年度に得られた知見も含めた研究成果の発表も積極的に行いたいと考えている。
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