研究課題/領域番号 |
16J03050
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研究機関 | 公益財団法人がん研究会 |
研究代表者 |
迫 洸佑 公益財団法人がん研究会, がん研究所 実験病理部, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 染色体分配 / CPC / HP1 / INCENP / Aurora B |
研究実績の概要 |
正確な染色体分配を担う重要な分子として、染色体パッセンジャー複合体(CPC)が知られている。CPCはM期キナーゼであるAurora Bを含み、INCENP(足場タンパク)、Survivin, Borealinの4つのタンパク質から成る複合体である。また、INCENPにはHP1が自身のChromo shadow domain (CSD)を介して結合することも知られている。その結合の生理的意義は長らく不明であったが、近年我々は、その結合がCPCの正常な活性維持に必須であることを明らかにした[Abe et al., 2016]。加えて、Aurora BキナーゼによるHP1のヒンジ領域へのリン酸化が、HP1のCPCに対する安定的な結合を保障していることも明らかとなり、HP1/CPC相互作用における正のフィードバックループ機構の存在が示唆されていた。 そこで本研究員は、HP1によるCPC活性制御機構の解明を目標に掲げて研究を遂行している。その際、HP1が結合するINCENPの天然変性領域(IDR)に着目して構造生物学的な観点からその解析を進めることにした。本年は、前年のITC解析で明らかになったHP1/INCENP新規相互作用領域をNMR法によってより詳細に解析し、既存の相互作用部位を含んだ最小相互作用領域を決定した。また、試験管内(in vitro)における構造生物学的解析として、High-Speed AFMを用いたINCENP/Aurora B二者複合体の一分子解析も行った。その結果、球状タンパク(Aurora B)とそれに結合し激しく運動している紐状タンパク(INCENP)を観察できたことに加え、HP1が結合/解離を繰り返す様子も観察された。また、それらの画像解析を詳細に行ったところ、HP1結合に伴うINCENPの伸長状態の変化が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)NMR分光法および培養細胞実験系を用いたHP1/INCENP相互作用領域の解析 前年度のITC解析で特定された相互作用領域について、NMR分光法を用いてより詳細な解析を行なった(横浜市立大学 西村善文教授の協力のもと実施)。その結果、INCENPのPVLモチーフ(βシート予測部位)に加え、そのC末端側に存在するαヘリックス予測部位の計二つの構造がHP1のCSDとの相互作用に必要であることが判明した。そこで、ヘリックス欠損INCENP変異体恒常発現型HeLa細胞株を樹立し免疫沈降実験を行なったところ、PVLモチーフ欠損変異体と同程度までHP1結合が低下した。以上の結果から、INCENP/HP1間においてPVLモチーフを介した既知の結合様式とは一線を画す新規結合様式の存在が示唆された。 (2) 高速AFMを用いた液中におけるCPC(主にINCENP/Aurora B/HP1)の挙動解析 HP1結合部位がINCENPの天然変性領域(IDR)に含まれることに注目し、HP1によるCPC制御機構にINCENPの構造変化が関与する可能性を考え、INCENP/Aurora Bへテロ二量体の液中の挙動を高速AFMによって解析した (金沢大学 古寺哲幸准教授の協力のもと実施)。その結果、球状タンパク(Aurora B)に結合し激しく運動する紐状タンパク(INCENP)が観察され、さらにHP1添加によって2つ目の球状タンパクがINCENPと結合/解離を繰り返す様子も観察された。そこで、より詳細な一分子画像解析を行い、HP1結合部からAurora Bまでの直線距離からINCENPの伸長距離を算出した結果、最大で約80 nmの伸長が可能であることが明らかとなった。加えて、HP1非結合時における長短の二状態の混在が、HP1結合時によって長い状態にシフトすることも分かった。
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今後の研究の推進方策 |
(1) HP1/INCENP新規相互作用領域の生理的意義の解析と相互作用領域の構造決定 前述のヘリックス欠損INCENP変異体恒常発現型HeLa細胞株において、我々が過去に明らかにしたHP1非結合型CPCの機能低下の再現性を検証すると共に、ヘリックス予測部位内の重要度の高いアミノ酸残基を特定して点変異体解析の可能性も探る予定である。加えて、X線小角散乱解析によってHP1ヒンジ領域のリン酸化の有無がHP1/INCENP相互作用にどのような影響を与えるのか検証する一方で、X線結晶構造解析によってHP1側の結合部位も含めた最終的な構造決定も計画している。 (2) INCENP伸長反応の生理的意義の解析、及びCPC制御機構の作業仮説の検証 染色体分配時において、Aurora Bは自身の局在範囲(インナーセントロメア)から約70 nmも離れた「アウターキネトコア」に位置する基質をリン酸化可能な活性範囲をもち、加えてその活性にはCPCに対するHP1の結合が必須であることが知られていた。これを踏まえ、前述の観察結果も合わせてHP1/CPC結合の機能的意義を改めて考察すると、Aurora Bの活性範囲がINCENPの伸長距離によって規定されており、HP1はINCENPの伸長状態の制御を介してCPCの活性制御を行なっている可能性が考えられた。今後はこの作業仮説を検討すべく、高速AFM解析と培養細胞実験を組み合わせた解析を行う計画である。具体的には、CPCの機能維持とIDRの関係性を検証すべく、IDR欠損変異体INCENP/Aurora Bの高速AFM解析、in vitro kinase assay、及びIDR欠損変異体発現細胞の表現型解析を行う予定である。
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