研究課題/領域番号 |
16J03138
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
竹内 博志 東北大学, 大学院理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 位相的データ解析 / 応用トポロジー / 時系列解析 / パーシステントホモロジー群 |
研究実績の概要 |
本年度は無限型だけでなく、より一般の可換梯子型パーシステント加群についてまず調査を行うこととした。その結果、研究集会に参加して調査を進めたところ、一般の可換梯子型パーシステント加群の直既約分解は複雑で、仮に直既約分解が出来たとしても、その直既約成分の扱いが困難である事が分かった。 そこで、時系列データ解析の別のアプローチとして、力学系の誘導写像を考えることにした。これはラトガース大学のK. Mischaikowらの論文「Inducing a map on homology from a correspondence」(2014)によって提案された手法で、研究を進めたところ、この手法は表現論の枠組み、即ち可換梯子型パーシステント加群で捉え直すのが自然であることが分かった。現在はfb型やbf型可換梯子の誘導写像に留まらず、より一般のパーシステント加群を使った、摂動に強い重み付き誘導写像について研究を進めており、重み付き誘導写像はパーシステント図として書き直す事も出来るという結果を得ている。 本研究では時系列位相的データ解析の理論的研究と並行して、位相的データ解析を使った粉体の実験データの構造解析を、オーストラリア国立大学のM. Saadatfar博士のグループと共同で研究している。これまで2次パーシステント図を使った粉体の解析について研究を進め、粉体中の歪んだ四面体・八面体構造の定義づけが出来ること・その定量的な解析が出来ることが分かった。特にこの手法を用いる事で、未解明であった粉体の高密度状態、及び結晶化現象について解析することに成功した。一連の内容が本年度Nature Communications誌に受理され、2017年4月に出版が予定されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初研究を予定していた時系列位相的データ解析の対象であるジグザグパーシステント加群と可換梯子型パーシステント加群には、それぞれ安定性の問題と直既約成分の問題があることがわかり、それを克服する新たな解析手法として、有限型の可換梯子型パーシステント加群と力学系の誘導写像を用いた時系列解析の手法を考案することが出来た。この手法は先行研究やジグザグパーシステント加群の不安定性を解消する1つの解決策を与えており、また無限型の可換梯子型パーシステント加群に立ち入る必要の無い簡便な時系列解析を可能にする。更に現在はfb型やbf型可換梯子の誘導写像に留まらず、より一般のパーシステント加群を使った、摂動に強い重み付き誘導写像について研究を進めており、重み付き誘導写像はパーシステント図として書き直す事も出来るという結果を得ているなど、当初の予想以上の成果が得られている。 粉体の研究では、これまで2次パーシステント図を使った粉体の解析について研究を進め、粉体中の歪んだ四面体・八面体構造の定義づけが出来ること・その定量的な解析が出来ることが分かった。特にこの手法を用いる事で、未解明であった粉体の高密度状態、及び結晶化現象について解析することに成功した。一連の内容が本年度Nature Communications誌に受理され、2017年4月に出版が予定されている。また新たに統計的手法などを導入する準備も進めており、こちらも当初の予想以上の成果が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
時系列位相的データ解析について、可換梯子型パーシステント加群と力学系の誘導写像を用いて研究を継続する。特に、fb型やbf型可換梯子の誘導写像に留まらず、より一般のパーシステント加群を使った、摂動に強い重み付き誘導写像について研究を進める。 粉体の位相的データ解析を使った研究では、新たな解析アプローチとして、粉体中のforce networkの統計解析の研究を本年度着手した。粉体中のforce networkとは、粉体中の各粒子が他の粒子から受ける力の連なりのことで、この力のデータは実験データから取得する事が出来る。2次元粉体のforce networkにはいくつかの解析結果が先行研究にあるが、3次元粉体のforce networkの性質の解明は未だ途上にある。本研究グループは、粉体の構造がパーシステント図によって特徴付けられること・パーシステント図の列の統計解析の手法が近年確立されたことに着目し、次の2つの統計解析を計画した。1つは、力の閾値による粉体の増大列を与える方法である。もう1つは、粉体の半径パラメータによる単体複体の増大列を与える方法である。前者の解析では各粒子への実数値の割り当て方そのものに問題があることが分かり、現在研究グループ内で検討を進めており、今後の研究課題となる。一方で後者の解析では、そもそもこのアルファ複体の増大列を計算機上で生成するアルゴリズムが存在せず、数学的な困難も伴うので、今後このアルゴリズムを開発する必要がある。
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