本研究は、時系列データに対する位相的解析の手法についての研究であり、「可換梯子型パーシステント加群」と「サンプル写像から定まるパーシステントホモロジー」の2つの対象を主題としている。また申請時より本研究では、2次元パーシステント加群から、意味のある幾何学的特徴量を抽出する手法の確立を最終目標として据えている。この2次元パーシステント加群は、点群の列として与えられる時系列データから、点群間で共通かつ頑健な幾何学的特徴量を捉えるために構成されてきたものだが、未だ標準的な扱い方(分解法など)は確立されていない。 本年度は主に、論文の出版・サンプル写像から定まるパーシステントホモロジーについての研究・研究成果の発表に注力した。まず論文の出版について、「可換梯子型パーシステント加群の行列問題を用いた直既約分解」についての論文を昨年度に再投稿していたが、改訂の後2018年9月に受理され、2019年1月に出版となった。サンプル写像から定まるパーシステントホモロジーについての研究では、C++のEigenライブラリにある疎行列を用いて、なるべく軽量になるように、パーシステント図を計算するアルゴリズムを実装した。また、これまでに構築した分解法に用いた関手性を応用することで、2次元パーシステント加群から、入力データ列で共通かつ頑健なホモロジー生成元を捉える事の出来るパーシステント図を抽出する新たな手法を構成した。以上のサンプル写像に関する研究成果、及びその発想の元となった対応のホモロジー誘導写像に関する研究成果について、各研究集会で発表し、今後の研究課題となるべき新たな問題設定を得た。これらの内容について原著論文の執筆も並行して行い、現在投稿中となっている。
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