研究実績の概要 |
直鎖のテトラデジルアミド基を導入したピレン誘導体(1)が、液晶性・特異な発光特性・強誘電性を発現する事を見いだしている。これらの物性は、水素結合性の超分子構造に依存すると考えられるが、その詳細な検討は行われていない。そこで、「光を用いた強誘電体から半導体への制御」を念頭に、「光物性・強誘電性と超分子構造」間の相関を明らかする事を目的とし、螺旋構造の形成が期待できる、キラル分岐鎖を有する3,7-ジメチルオクチルアミド基を導入したピレン誘導体(S-2, R-2)を合成し、これらの形成する水素結合性螺旋超分子構造に着目し、溶液中における発光特性とバルク強誘電物性の制御を試みた。 分子S-2およびR-2は、濃度・溶媒の種類(メチルシクロヘキサン(MCH), CHCl3, THF)に依存した吸収-発光スペクトルを示した。次に、基底および励起状態におけるらせん分子会合状態を、円偏光二色性(CD)と円偏光発光(CPL)スペクトル測定により評価したところ、いずれの測定でもらせん会合体の形成に由来するスペクトル活性が見られた。また、MCH中ではg = 10-2オーダーの非常に高いCPL活性が、また、CHCl3中では他の溶媒と逆向きのCPL活性が確認された。よって、濃度や溶媒に依存した吸収-発光スペクトルの変化は、基底状態と励起状態の水素結合性らせん超分子構造に起因する事が示された。発光特性とCPL活性を、溶媒による超分子構造の制御により実現した初めての研究例である。 バルク状態の分子S-2およびR-2は、液晶性と強誘電性を示さなかった。そこで、 (1)(S-2)混晶の作製を試み、そのミクロな強誘電物性に関する検討を試みた。混晶は、分子1の割合が30%以上で液晶性を発現し、一方、強誘電性は分子1が97%以上でのみ観測された。よって、分子S-2の僅かな添加が分子1の強誘電性を消失させ、分子1のある閾値以上の会合体を形成が強誘電性の発現に重要である事が判明し、会合数の制御による強誘電性の制御に成功した。
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