研究実績の概要 |
本年度は、アルキルアミド置換ピレン誘導体の特異な発光特性の原因を調査するため、キラル分岐アルキルアミド基を導入した分子S-1, R-1の会合挙動に関する研究を行い、その論文執筆を行った。また、中心のπ電子骨格が与える強誘電性への影響を調べるため、非平面π電子系化合物のヘリセンに、アルキルアミド基を導入した化合物(2)を合成し、強誘電性の評価を行った。 昨年度の研究より、S-1, R-1は溶媒・濃度依存した発光特性を示し、これはCD, CPL測定から、超分子の螺旋構造に起因していると分かった。また、S-1, R-1はゲル化能を示し、これはナノファイバーの形成に起因していると考えられる。そこで本年度は、この超分子構造に起因したファイバー構造を確認する目的から、S-1のAFM測定を行なった。S-1は基板依存したファイバー構造の形成を示した。これは、基板の親水性が関わっていると考えられ、CD, CPL測定の溶媒依存性の結果と一致した結果であった。これらの結果を基に、キラル分岐アルキルアミド置換ピレン誘導体の発光特性についての論文を執筆し、The Journal of Physical Chemistry Cに掲載された。 また、分子2はDSC測定とPOM観察から、330-420 Kで液晶相を示した。分子2が液晶性を示したため、誘電率の温度-周波数依存を評価したところ、これまでの強誘電体と同様の挙動を示し、強誘電体の可能が示唆された。そこで次に、P-E測定による強誘電性の評価を行った。分子2は液晶相で、強誘電体に特徴的なヒステリシスループを示し、残留分極の値は温度上昇に伴い増加した。これは、分子間水素結合により短距離的に固定されたアミド基の回転が、温度上昇により容易に誘起されたためと考えられる。以上より、アルキルアミド置換ヘリセン誘導体は、液晶性と強誘電性の両者を示す事が明らかとなった。
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