本研究では、固体発光クロミズム材料の物性調査と、その蛍光センシングデバイスへの応用について検討した。励起状態分子内プロトン移動(ESIPT)発光分子として古くから知られる2-(2‘-ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾール(HBT)に着目し、塩基性化合物に応答可能なスルホン酸基を導入した分子1を新規な発光クロミック分子として設計・合成した。分子1と塩基性化合物間のプロトン移動によって、分子の電子状態が変化し、ESIPT発光のON/OFFの切り替えによる波長変化の大きな発光クロミズムを期待した。 結晶構造解析より、分子1は分子内水素結合を形成できないコンホメーションを取り、この分子構造に由来して、ESIPT過程を経ないストークスシフトの小さな発光を450 nmに示した。興味深いことに、分子1はプロピルアミン(PA)を2分子分吸着可能であり、段階的なPA吸着によって発光波長が515 nm、422 nmへと著しく変化した。結晶構造解析よりこの発光波長の変化は、結晶中で分子1のコンホメーション変化が誘起されて、ESIPT発光のOFFとONの切り替えに起因していることが明らかとなった。 結晶1の示す蛍光クロミズムを、アンモニアセンシングに応用した。分子1の薄膜を作成し、様々な濃度のアンモニア蒸気に暴露させて発光色の変化を検討した。結果、薄膜自体はほとんど発光を示さないが、アンモニア濃度が10~2400 ppmのときは515 nmの緑色発光、2400 ppm以上に濃くなると450 nmの青色発光へと段階的に変化した。さらに、固体アミンであるヒスタミン(HA)のセンシングも検討したところ、薄膜のHAと接触した部分の発光色が変化し、こちらも濃度が濃くなると緑色から青色へと発光色が変化した。結晶1の発光クロミズムを利用する事で、高感度で濃度に応じた段階的なアミンセンシングを実現することができた。
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