研究課題
これまでの研究から、大腸管腔内に投与したカプサイシンによって大腸運動が亢進し、この反応が脊髄と脳を介していることを明らかにしてきた。本研究では、このカプサイシン誘発性大腸運動亢進に、モノアミン神経による下行性疼痛抑制系が関わっているかを検討する。本年度は、カプサイシンの作用メカニズムおよび脊髄排便中枢におけるモノアミン神経の関与の検討を行った。大腸管腔内に投与したカプサイシンが、脊髄へ入力する感覚神経にどのように作用するのかを検討した。TRPV1の拮抗薬をカプサイシンと同時に大腸管腔内に投与したところ、カプサイシンによる大腸運動促進作用がみられなくなった。さらに、TRPV1をノックアウトしたマウスを用いてさらなる検討を行った。これまでラットで用いてきた実験系をマウスで行うために、実験系の小型化と調整を行い、マウスにおけるin vivo実験系を確立した。この実験系を用いて、大腸管腔内においてカプサイシンはTRPV1を介して作用することを明らかにした。続いて、カプサイシンによる大腸運動亢進に、脊髄排便中枢のモノアミン神経が関与するかを調べたところ、大腸管腔内に投与したカプサイシンは、脊髄排便中枢にあるドパミンおよびセロトニン作動性神経を介して、大腸運動を促進していることが明らかになった。さらに、本年度の研究の過程において、ソマトスタチンを脊髄排便中枢に投与すると、大腸運動が亢進することが新たに明らかとなった。そこで、このソマトスタチンの作用メカニズムを検討したところ、脊髄排便中枢に投与したソマトスタチンは、脊髄排便中枢に作用し、そのシグナルは脳へと上行することなく、脊髄排便中枢から大腸への神経経路を直接活性化していると考えられた。これらの実験結果はJournal Physiological Science誌において、英文の原著論文として発表している。
2: おおむね順調に進展している
これまでの研究で明らかにしていた、大腸管腔内に投与したカプサイシンによる大腸運動亢進に、脊髄排便中枢のドパミンおよびセロトニンが関わることを明らかにすることができた。そのため、本研究の主な目的の一つである「カプサイシンによる大腸運動亢進における脊髄排便中枢のモノアミン神経の関与の確認」を達成できた。また、本年度の研究成果を英文科学論文として発表することができた。以上の点から、現在までの達成度として、「(2)おおむね順調に進展している」を選択した。
これまでの研究結果を踏まえ、カプサイシンの大腸管腔内投与によって、ドパミンおよびセロトニンの量が脊髄排便中枢において実際に増加しているのかを検討する。そのための、脊髄排便中枢におけるマイクロダイアリシス実験系の構築が終わりつつあり、データの収集を始める予定である。さらに、本年度の研究から、脊髄排便中枢においてドパミンおよびセロトニンが生理的な作用を持つことが示されたため、これらの神経伝達物質がどの神経から放出されているのかも検討する予定である。脊髄におけるモノアミン神経伝達物質はそのほとんどが脳から投射する神経に由来するため、脳にある各種モノアミン神経が集まる神経核を電気刺激することで、大腸運動が亢進するかを調べる。さらに、意識下での痛みの実験を進めていく方針である。また、本年度の成果を発表するために、現在英文科学雑誌への投稿を予定している。
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J Physiol Sci.
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
doi: 10.1007/s12576-017-0524-1.
J Physiol.
巻: 594 ページ: 4339-4350
doi: 10.1113/JP272073.