研究課題/領域番号 |
16J03311
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
勝亦 佑磨 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 目的意味論 / 志向性 / 誤表象 / 目的論的機能主義 / 進化 / 学習 / ドレツキ / ミリカン |
研究実績の概要 |
2016年度は、目的論的機能主義に基づく志向性の自然化の問題に関して最も盛んに議論が行われた、1980年代から1990年代の文献を検討することで、次のような成果が得られた。 第一に、ドレツキ(Dretske, 1988)による学習に基づく表象論への基本的な理解を深めることができた。特に、ドレツキ(Dretske, 1981)の初期の表象論の抱えていた誤表象問題を解決するために、彼がどのように以前の理論を修正し、学習に基づく新たな表象論を展開したのかを理解することができた。ドレツキの新たな表象論(1988)によれば、生物の内的状態Cが外部の状態Fを表象するとは、「CがFを表示する機能を持つ」ことであり、こうした機能がうまく働かないときに誤表象が生じることになる。しかし、検討の結果、こうした機能の概念を導入しても、「表示」の概念を用いる限り、ドレツキは表象の生産者重視の理論を展開していることになり、誤表象をうまく説明できていないことが明らかになった。 第二に、ミリカン(Milkan, 1989, 1993)による進化に基づく表象論への基本的な理解を深めることができた。ミリカンは、表象の生産者の視点よりも、表象がどのようにして生存に結び付くような行動に使われるかという消費者の視点を重視する。そのため、表象の正誤は、行動の成功及び失敗と結び付けられることによって説明される。検討の結果、こうしたミリカン理論はドレツキ理論よりも誤表象をうまく説明できることが明らかになった。 以上のような内容に関して正確な理解と検討を行うために、1ヶ月に2回程度、目的論的機能主義に関する研究会を主催した。また、生物学の哲学に関する研究会にも出席した。また、以上の研究の成果として、日本科学哲学会、科学基礎論学会、海外でのワークショップでの研究発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画通り、目的論的機能主義に基づく志向性の自然化の問題に関して最も盛んに議論が行われた、1980年代から1990年代の論争を検討することで、進化に基づくミリカン表象論と学習に基づくドレツキ表象論がどのように異なるかという点を明らかにすることができた。 その際、両者の違いを、単純に、進化による説明(すなわち生物種や集団レベルでの志向性の自然化)と学習による説明(すなわち生物の個体レベルでの志向性の自然化)という点で明確化できただけでなく、表象の消費者重視の理論と生産者重視の理論という点で明確化し、ドレツキ表象論の問題点を明らかにできたという点は、当初の計画以上に成果が得られたと考えられる。こうした区別は、今後の研究において、ドレツキ表象論を修正し、学習に基づく表象論を擁護するうえで、重要な役割を果たすと考えられる。 さらに、こうした両者の区別の明確化は、2000年代以降の目的論的機能主義の新たな立場の論争を検討するうえでも重要な役割を果たすと考えられる。特に、2000年代以降、表象の消費者ではなくあえて生産者の重要性を指摘する立場(例えば Shea, 2016)の是非を検討する際、大いに役立ちうると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
2017年度以降は、目的論的機能主義に基づく志向性の自然化の問題に関して、次のような計画で研究を行う。 第一に、学習に基づく表象論を擁護する意義を検討する。先に述べたように、ドレツキによる学習に基づく新たな表象論は、誤表象問題を解決できていなかった。ミリカンによる進化に基づく表象論に分があると考えるのは自然だろう。それでもなお、学習に基づく表象論は、進化の基づく表象論とは違った方法で、心の持つ志向性を説明できる可能性は否定できない。そこで、2017年度は、学習に基づく表象論は進化に基づく表象論とほんとうに異なるものであるのかどうかという点を、先行研究(例えばArtiga, 2010)をふまえて検討し、学習に基づく理論を支持する積極的な意義があるのかどうか、検討したい。 第二に、新たな目的論的機能主義の立場の検討を行う。先に述べたように、目的論的機能主義に関する1990年代までの議論によれば、ミリカンをはじめとする(表象の生産者よりも)表象の消費者を重視する理論が優勢であった。だが、2000年代以降の議論をみると、表象の生産者の視点を再評価する、「情報-目的意味論」と呼ばれる新たな目的論的機能主義の立場(例えば Shea, 2016)が現れている。こうした新たな立場をふまえて、志向性の説明に関して、表象の生産者を考慮する意義はほんとうにあるのかどうかを検討したい。 また、こうした研究成果を学術雑誌(例えば『哲学・科学史論叢』など)に投稿するとともに、 各学会(例えば日本科学哲学会、科学基礎論学会、応用哲学会など)や海外での発表を行う予定である。
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