研究課題/領域番号 |
16J03311
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
勝亦 佑磨 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 心の哲学 / 志向性 / 進化 / 目的論的機能主義 / 表象論 / 学習 / ドレツキ / ミリカン |
研究実績の概要 |
本研究は、心の哲学における目的論的機能主義の立場にから、心の持つ志向性がいかにして自然化されうるかという問題を考察することを目的としている。目的論的機能主義の主流な見解は、ミリカン(Millikan, 1989)をはじめとする進化に基づく表象論であるが、本研究ではあえて、ドレツキが『行動を説明する』で展開した学習に基づく表象論(Dretske, 1988)に焦点を当ててきた。というのも、学習に基づく表象論は、進化の基づく表象論とは違った方法で、心の持つ志向性を説明できる可能性があると考えられるからである。2017年度は主に、次の2つの内容に焦点を当て、研究を進めた。 第一に、ドレツキによる学習に基づく表象論はミリカンによる進化に基づく表象論とほんとうに異なるものであるのかどうかという点を検討した。。その結果、学習も進化も、ある表象メカニズムが、ある種のレベルで選択され淘汰されるのか、それともある個体のレベルで選択され淘汰されるのかという違いに過ぎず、それらは本質的には違いがないものであるということが明らかになった。 第二に、目的論的機能主義の2つの立場、すなわちドレツキをはじめとする生産者重視の表象論とミリカンをはじめとする消費者重視の表象論を、目的論的機能主義の新たな立場(Shea, 2007)の見解もふまえて比較検討した。その結果、現時点では消費者重視の立場の方に分があることが明らかになった。というのも、生産者重視の立場による表象内容の説明は、生物の生存に役立ってきたのはどのような機能かという点を軽視しており、その意味で説得的な目的論的機能主義の説明ではないと考えられるからである。 以上のような点に関して、現段階では、進化に基づく表象論とは別に、学習に基づくドレツキによる生産者重視の表象論を支持する積極的な根拠はないということが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画通り、目的論的機能主義に基づく志向性の問題に関して、ドレツキによる学習に基づく表象論が、ミリカンによる進化に基づく表象論と本質的に異なるものであるのかどうかという点及び、進化による理論とは別に学習による理論がほんとうに必要であるのかどうかという点を検討することができた。しかもこうした点を、単なる学習/進化という観点のみならず、表象の生産者重視(ドレツキ)/表象の消費者重視(ミリカン)という区別の観点及び目的論的機能主義の新たな立場の見解もふまえて、詳細に行うことができたという意味では、当初の計画以上の成果が得られたと考えられる。 こうした検討を通じて、本研究の特色である学習によるアプローチが、少なくともドレツキ理論を見る限りでは、目的論的機能主義の主流である進化に基づく理論と本質的には重要な違いがないことが明らかになった。そして、少なくとも現段階では、学習に基づく表象の生産者重視のドレツキ理論を支持する積極的な根拠は見当たらないことが明らかになった。もちろん、こうした本年度の研究によって得られた成果の中心は、本研究の特色である学習によるアプローチの利点が見つけ出されたことというよりはむしろ、問題点が洗い出されたことであろう。しかし、こうした問題点が明確化されたことは、今後の研究において、ドレツキ表象論を修正し、学習に基づく新たな表象論を構築するうえで、大いに役立ちうると考えられる。 以上の研究の成果として、日本科学哲学会や国際論文投稿ワークショップでの英語での口頭発表をはじめ、当初の計画を超え、計5回の研究発表を行った。また、以上の研究の成果の一部にかんする論文を、『哲学・科学史論叢、第二十号』に投稿した。
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今後の研究の推進方策 |
少なくともこれまでにドレツキの理論を検討した限りでは、学習に基づく表象論と進化に基づく表象論の本質的な違いが見られず、後者とは別に、前者を支持する積極的な根拠はないと考えざるを得ない。しかし、ここまでの検討はあくまでドレツキがそれを展開している著書である『行動を説明する』の前半部分を中心に行ったものであり、その後半部分はまだ十分に検討できていない。前半部分では、主に、ネズミやハトなどのいわゆる下等な動物の原始的な表象の説明がほとんどであり、人間のような高等な動物の複雑な表象が扱われているのは後半部分である。もしこうした複雑な表象が、進化に基づく表象論では説明しえないような表象であるとすれば、学習に基づく表象論を支持する意義があるといえる可能性は十分にあるといえるだろう。2018年度はこうした点をふまえ、学習に基づく表象論の意義に関して、さらなる検討を行いたい。
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