研究課題/領域番号 |
16J03416
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
金沢 友緒 明治大学, 文学部, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | ロシア文学 / 気球 / 啓蒙主義 / ドイツ / 自然科学 / 博物館 |
研究実績の概要 |
研究初年度は、近代ロシア文学の中で「自然科学」が具体的にどのような役割を果たし、どのような観点から描かれていたのかを考察するための最初の作業として、18 世紀後半の科学の進歩の大きな出来事であった「熱気球」の誕生を巡るロシアの作家達の反応について注目し、資料収集と作品分析・考察を行った。 年度の前半はサンクト・ペテルブルグのロシア科学アカデミー・ロシア文学研究所で 18 世紀の定期刊行物、日本で入手が困難な当時の作家の作品集を閲覧し、気球に関わる記述の資料と情報の収集を試みた。 後半は拠点を日本に移して研究経過を国内の学会で発表し、さらに秋にはロシアの学会で報告するため、追加の出張を行った。文学研究所で閲覧した雑誌『ロシア語愛好者の友』に発表されたロシアの知的エリート達の作品からは、1783 年のフランスのモンゴルフィア兄弟の一連の気球実験に対する彼等の反応を推測することが可能であり、興味深いものとしてはエカチェリーナ2世が執筆した文章の中にも気球を巡る記述があったことが確認できた。 この点を踏まえて、日本ロシア文学会第66回大会では「近代ロシア文学における気球」というテーマで、女帝、ダーシュコワ、デルジャーヴィン、ラジーシチェフといった当時の知的エリート達の気球誕生を巡って現れたフランスに対する批判的な視点について考察を展開した。 これらの 18 世紀の作家達の視点に、19世紀のロシア社会との対比の中でより客観的な分析を加えることができるよう、並行して 19世紀中庸の作家達が「気球」という存在に対してどのような反応を見せたのかについても検討することに努め、とりわけ、ブルガーリンやドストエフスキーの作品に注目した。成果についてはサンクト・ペテルブルグの人文学者エゴ―ロフ生誕90周年学会、及び日本国内のドストエフスキーの会等で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の研究は、半年のロシアでの海外調査生活の中で収集した18-19世紀の定期刊行物から得た様々な情報を元に、18世紀後半の具体的な「気球の誕生」という出来事を巡って、当時のロシアの知識人が見せた一定の反応と評価についての考察を展開することができた。 自然科学に関して気球に加え、植物や博物史を対象とした調査に関しては、ペテルブルグの自然科学史研究所の休暇スケジュールとの関係もあり、今年度においては研究所での立ち入った調査をすることは叶わなかったが、その代わり研究所が発行している雑誌等の情報を入手することができたことは有り難く、今年度の研究作業にさほどの支障を来さなかったと考える。 ロシア文学研究所ではドイツ比較文学研究者ダニレフスキー教授や、18世紀部門のコチェトコーヴァ教授、研究員ソロヴィヨフ氏等からのアドヴァイスをもらうことができた。国内外問わず、予想していた以上に多くの場で研究発表の場を与えられ、ロシアのみならずスペインの国際学会で研究交流の場に参加することができたのも、今後ヨーロッパでの調査を計画している私にとっては有益であった。 また初年度の研究を通して、次年度の中心的な表象として「気象」のテーマが輪郭を持ってきたといえる。 以上の点を総合的に踏まえて、現在までの研究の進捗状況については概ね順調であったと考える。
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今後の研究の推進方策 |
2年目は昨年度からの研究作業を踏まえ、引き続き定期的にロシア、及びドイツを中心とするヨーロッパで資料調査を行う予定である。現在の研究状況の中で浮かび上がってきた、ロシア社会における「気象」が中心的な題材の1つとなるだろう。 そのためには、まず、科学の分野の知識・技術を身につけるためにドイツに留学していたロシア・エリート達の動きをおさえる必要がある。例えばロシアにドイツのライプツィヒ大学へ留学したことのあるロモノーソフは、18世紀ロシアには、世紀の前半から半ばにかけて活動した文学者で、ロシア語文体や詩の改革に貢献しただけでなく、科学者、数学者として自然科学の分野でもめざましい活躍をみせていた。彼は自然科学の分野に対して専門的な関心を寄せており、オーロラ・雷等の自然現象についても造詣が深かった。 また、ロシアに持ち込まれた西欧の影響との関係を明らかにするために、ロシアで功績を残した外国人学者の活動も調査したい。
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