研究課題/領域番号 |
16J03416
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
金沢 友緒 明治大学, 文学部, 特別研究員(PD) (20785828)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | ロシア文学 / 科学 / 気球 / ドイツ / 啓蒙 / エカチェリーナ2世 / フランス |
研究実績の概要 |
本研究は、近代ロシア文学の中で「自然科学」がどのような観点から捉えられ、具体的にどのような役割を果たしていたのかを考察することが目的であり、初年度は18世紀後半の科学の進歩の大きな出来事であった「気球実験」を巡るロシアの作家達の反応に注目し、資料収集と作品分析・考察を行った。 今年度は、初年度の成果を踏まえて、科学技術や博物学に対する18世紀末から19世紀にかけての教育・啓蒙的な視点を考察するべく、当時の翻訳・翻案資料を調査した。また、今年度は「気球」に加えて、「気象」と「動物」のモチーフに注目した。その1例である「雷」と「鳥」は、季節の訪れを表す存在として詩、小説や日記、備忘録の中にも登場しており、これらが作品に与えた効果を考察している。成果の一部は、2018年6月刊行予定の『ロシアの歳時記』(東洋書店新社)の中で執筆を「春雷」及び「渡り鳥」の項目に反映させた。 資料収集に際して、年度の前半はサンクト・ペテルブルグのロシア文学研究所、市立図書館等を利用し、後半は北海道大学スラブ・ユーラシア研究センターへ2度にわたって出張した。国外では昨年度に引き続き雑誌『ロシア語愛好者の友』(1783~1784)を参照したほか、ロシアの博物学に関する情報を得るために、鳥類百科事典等も購入した。 北大のセンターでは、「18世紀ロシア出版物」のコレクションを中心に参照した。特に科学技術、博物学に関わる啓蒙主義的な児童雑誌や、芸術アカデミーの学位論文等、当時の自然科学と啓蒙思想の関係を考察する上で参考となる資料を入手した。成果の一部は2018年4月にケンブリッジで開催される英国スラヴ東欧学会で発表する予定である。 なお、同研究課題に関連して、近代ロシアの作家達の傾向を考察し、成果の一部を8月末にロシアのブリャンスクで行われた国際学会で、12月には清泉女子大学で行われた比較文学会例会で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は前年度の「気球」のモチーフをめぐる考察を踏まえた上で、視野を広げ、科学と博物学にみる多様なモチーフに注目して資料調査を行うことができた。その際に日本とロシアの研究機関を効率良く活用し、資料を入手し、また、当初予定していなかった関連資料を追加で入手できたのも、成果の1つである。 研究成果の発表の場としては、年度を跨いでしまうが、4月に英国スラヴ東欧学会で報告をする。これらの進捗状況を踏まえ、研究は概ね順調に進展しているといってよいだろう。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は3年目であるため、最初の2年で消化しきれなかった作業の補完を中心に、追加の資料収集と考察を行っていく予定である。その際に、こうした自然科学の一連の発明・発見という、特に18世紀における社会的事象と、当時のロシア国内の知的階層 達が抱いていた「自国の言語による啓蒙と教育」に対する関心及び目的意識との関係に注目しながら、作業を進めていきたい。なお、3年目はこれまでの作業をまとめるために国際学会等への参加を心がけ、年度末には文学研究の枠を超えて、他の隣接分野の研究者との協力によって、当該テーマに関わる小規模な国際研究会を開催することができればと考えている。
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