研究実績の概要 |
本研究は、近代ロシア文学において「自然科学」がどのような観点から捉えられ、どのような役割を果たしていたのかを考察することを目的としている。初年度は18世紀後半の科学の進歩の大きな出来事として「熱気球」の誕生を巡るロシアの作家達の反応について注目し、2年目は初年度の成果を踏まえて科学技術や博物学に対する18世紀末から19世紀にかけての教育・啓蒙的な視点がテクストの中にどのような形で現れていたのか、当時の翻訳・翻案を中心とする資料を調査した。 3年目の今年度は、昨年度までに入手した18世紀末のロシアの定期刊行物等の調査を継続しつつ、これまでの研究のまとめを試みた。調査対象の一つである18世紀後半ロシアの定期刊行物『伸びゆく葡萄』(1785-1787)に掲載された自然現象の仕組みについて記述した文章については、研究成果の一部を2019年開催の18世紀学会国際大会(イギリス,エディンバラ)で報告する予定である。 また、18世紀後半及び19世紀初頭の啓蒙的出版物に加え、ロシアが自国の近代化に向けて成長を遂げていく19世紀中葉から後半にかけて登場した文学作品も考察対象とし、科学技術の主題においてそれらの作品を前世紀のものとの対比の中で捉えることを試みた。そのひとつとして19世紀ロシアの作家И.С.トゥルゲーネフの作品に注目し、鉄道が物語の方法としてどのように用いられているかを考察した。成果の一部については、2018年秋に開催されたトゥルゲーネフ生誕200周年記念学会において、パネル報告を行った。 なお、本研究に関連する作業として、今年度前半に、一時期ロシア帝国の支配下に置かれていたリトアニアとラトヴィア、及びロシアのサンクト・ペテルブルグで調査を行い、今年度後半には、京都大学図書館等で18世紀のヨーロッパを中心とする技術発展の歴史に関わる追加の資料調査を実施した。
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