研究課題/領域番号 |
16J03421
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
千秋 元 甲南大学, 理工学部, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 星形成 / 金属欠乏星 / 初代星 / 初代銀河 / 銀河形成 |
研究実績の概要 |
本年度は、初代星超新星による輻射フィードバックとその超新星による金属(ヘリウムより重い元素)の拡散を数値シミュレーションで追い、続く星形成領域の金属量について調べた。現在観測されている長寿命 (~1Gyr) の極金属欠乏 (EMP) 星は、一回または数回の初代星超新星によって金属汚染されたガス雲の収縮によって形成されたと考えられている。本研究では、EMP 星の金属量分布とシミュレーション結果を比較し、初代星の金属汚染過程に制限をつけることを試みた。 まず、140-260 Msun という大質量初代星は対不安定型超新星 (PISN) という、エネルギーの大きい (~30e51 erg) 爆発を起こすと考えられている。主系列期の電離率は大きく (~10^50 /s)、ほぼ全てのミニハロー(初代星を形成する暗黒物質の塊)に対し電離領域が形成される。超新星衝撃波は低密度 (~1 /cc) になった星周ガス中を伝播するため、放射冷却によるエネルギー損失を受けず、金属は隣接するハローの各ビリアル半径 (~50 pc) まで到達する。ただ、ほぼ全てのハローに対し、金属は収縮中心まで到達せず、現在のところ PISN の元素組成を持つ EMP 星が観測されていないことと整合する。 一方、8-40 Msun の初代星は 10^51 erg のエネルギーを持つ重力崩壊型超新星 (CCSN) を起こす。電離率が小さい (~10^49 /s) ため電離領域は形成されず、高密度の星周ガス中を伝播する超新星衝撃波は放射冷却によるエネルギー損失を受ける。ガスは再収縮を起こし、ミニハローの内部汚染の結果、金属量は大半のミニハローに対して 10^-5-10^-2 Zsun となり、EMP 星の金属量の範囲と整合する。したがって、EMP 星の起源は一回の CCSN による内部汚染で説明できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の最終的な目的は初代銀河における元素組成と星質量分布の進化を数値シミュレーションによって追うことである。本年度は金属汚染と星形成の相互作用の一サイクル目として、初代星超新星による金属汚染と、それに起因する EMP 星形成に焦点を当てた。最終的には宇宙論的シミュレーション内(数10 comoving Mpc の計算領域)で大質量星による輻射フィードバックと超新星による力学的フィードバックおよび金属/ダストの拡散を追うことを目標としているが、これは本年度の小スケールのシミュレーション(100 comoving kpc の計算領域)の自然な拡張で行うことができる。まず、輻射輸送や金属の拡散のスキームは変更なく今後も使用できる。また、今後は金属原子/分子の冷却率を追加する必要があるが、これらはすでに実装を終え、テスト計算も完了している(【今後の研究の推進方策】参照)。 さらに、本年度行った EMP 星に関する研究は以下の点で重要な位置付けを持つ。初代銀河は Hubble Space Telescope (HST) や Atacama Large mm/sub-mm Array (ALMA) などの現在の観測機器で直接観測することは困難である一方、EMP 星は近年の大規模サーベイによってすでに 1400 個のサンプルが得られている。このように EMP 星から初期宇宙の星質量分布や元素合成メカニズムに迫るアプローチは銀河考古学と呼ばれ、現時点でシミュレーション結果との比較が可能である。報告者は【研究実績の概要】で記述した以外にも、EMP 星の分類について論文を発表している。EMP 星は炭素過剰を示すものとそうでないものがあるが、それぞれ炭素ダストとシリケイトが形成過程に重要な冷却剤となることを解析的に示した。これらの業績から、「(1) 当初の計画以上に進展している」を選択した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は計算領域と時間を拡張し、大質量星の輻射/超新星フィードバックを考慮した宇宙論的シミュレーションを行うことで初代銀河や矮小銀河における元素組成と星質量分布の進化を追う。輻射輸送と金属拡散のスキームは本年度までに実装を完了している。一方、ダストは圧力を受けない分、ガスと異なる運動をすることが知られている。したがって、2成分流体モデルを構築し、ダストの拡散過程を詳細に追う。ダストは高密度 (~10^14 /cc) でガス雲の分裂を促進し、小質量星形成をもたらすと考えられている。また、ダストは減光によって銀河の観測特性を決定するため、ダストの拡散過程の計算の精密化を図ることは重要である。 星形成ガス雲中では、ダストだけではなく、金属分子の形成やそれによる放射冷却もガス雲の分裂過程を決定づける。これまでの研究では、EMP 星形成領域の密度がある程度 (10^3 /cc) になると計算を止めていたため、金属分子やダストの化学反応と放射冷却を考慮していなかったが、今後はそれらの物理過程も考慮した計算を行う必要がある。これらはすでに実装とテスト計算を完了している。 初代銀河形成計算を終えると、輻射輸送計算によってそれらの観測特性を再現することができる。そして、今後打ち上げや建造が予定されている James Webb Space Telescope (JWST) や Thirty-Meter Telescope (TMT) の観測可能性を探る。観測が困難である場合は、より計算時間を伸長し、より低赤方偏移かつ大質量の銀河の形成を追い、より観測可能性を上げていく。
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