本年度は主に以下の2つの研究を行い結果を得た。 1. カプトーの時間微分項を持つ方程式(ただし空間微分は整数階)を扱った。従来の粘性解のアイデアに従えば自然に一般化解を定義できる。しかし、従来の一意性の証明に抜本的な見直しが必要であるものの昨年度の研究ではこの解決には至らなかったため、この解の概念が適切なものであるかどうかは未解明であった。一方、カプトー微分そのものではなくそれを変形した同値なものを用いても新たに一般化解を定義することができる。これは昨年度導入した適切な粘性解である。本研究では、これら2つの概念が同じであることを証明した。このおかげで前者の解の概念に対する適切性の問題が解消されたことに加え、これまでの存在性の証明も簡易になり理論が随分整理された。 2. 空間2階微分項が階数1未満のカプトー空間微分の一階微分で置き換えられた1次元熱方程式(非整数階熱方程式と呼ぶ)を初期境界条件の下で考察した。この方程式の固有関数は特殊関数で表されるため、任意に与えられた初期境界条件に対するフーリエの方法による解法は単純でない。同様の理由から通常の熱方程式の熱核に相当するものも特殊関数で表される。そのため、方程式の素朴さに反して通常の熱方程式で考えられるような一般化解を見つけることは容易ではなく、これまで解の存在に関連する研究はなかった。本研究では、粘性解理論に基づく解法を試み時間非整数階の方程式に対して確立した粘性解の理論が非整数解熱方程式にも適用可能であることを発見した。すなわち、粘性解の拡張概念を導入し一意存在性および安定性などの基本的な諸性質を証明した。通常の熱方程式と同様に平滑化作用が期待できることもわかったが、まだ証明の完了には至っていない。
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