研究課題/領域番号 |
16J03443
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
嶋川 銀河 神戸大学, 農学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | 光合成 / 活性酸素 / Flavodiiron / 酸素 |
研究実績の概要 |
第1に申請者は、光化学系I反応中心クロロフィルであるP700が酸化される事によってこそ、過剰な光エネルギーによる活性酸素の生成が防がれる事を実証した (Shimakawa et al. 2016 Plant Physiology 172, 1443-1450) 。またFLVがP700酸化に担う役割とシアノバクテリア内での種多様性を解明した。 第2に、FLVによるO2還元の反応メカニズムを明らかにするため、大腸菌を用いたFLVリコンビナントタンパク質の作製を行った。ベクターコンストラクトに共発現ベクターの1種であるpET-Duet-1を用いる事で、FLV1およびFLV3アイソザイムがヘテロダイマー化しリコンビナントFLVタンパク質を得る事に成功した。申請者は、フラビンタンパク質の生化学実験に精通したロンドン大学クイーンメアリー校のGuy Hanke上級講師とコンタクトを取って共同研究を始め、ロンドンに4週間の出張に赴き、調整したリコンビナントタンパク質を用いてFLVの基質同定および酸化還元電位測定に取り組んだ (投稿準備中) 。 第3に、申請者は基部陸上植物ゼニゴケにおいてFLV欠損株を作製し、その解析を通して、光合成生物の進化過程においてP700を酸化するためのO2利用戦略が、FLVから光呼吸へと変遷している事を明らかにした (Shimakawa et al. 2017 Plant Physiology 173, 1636-1647) 。 平成28年度に申請者は、特別研究員の研究課題に係る3報の筆頭著者論文と2報の共同著者論文を研究業績として上げ、さらに国際光合成会議およびそのサテライト会議において口頭、ポスター発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成28年度に申請者は、基部陸上植物ゼニゴケを用いて、光合成生物において活性酸素生成を抑制するために働くO2利用戦略の進化的変遷を明らかにした (Shimakawa et al. 2017 Plant Physiology 173, 1636-1647) 。シアノバクテリアにおいて生理機能が見出されたFLVは、真核藻類であるクラミドモナスでも同様に機能しており (Shimakawa et al. Scientific Reports 7, 41022) 、陸上進出を果たしたコケ、シダ、裸子植物においてもO2還元酵素として働いている (Takagi et al. 2017 Physiologia Plantrum In press) 。申請者は、FLVと光呼吸の両方をもつゼニゴケが、O2の拡散定数が下がる水中においてO2親和性の高いFLVを選択的に利用して活性酸素生成を防ぐことを見出した。これは当初計画していた進化的側面とは別に生態的側面から得られた極めて重要かつ新規の知見であった (Shimakawa et al. 2017 Plant Physiology 173, 1636-1647) 。 また平成28年度には、先方との都合が合わず、フィンランドのトゥルク大学への訪問が実現しなかったが、日本植物生理学会年会においてトゥルク大学の当該研究室に在籍するSuorsa先生と会い、その後に神戸大学に招待して研究のディスカッションを行った。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度に申請者は、大腸菌を用いてFLVリコンビナントタンパク質の作製を行い、ロンドン大学クイーンメアリー校のGuy Hanke上級講師との共同研究を経て、FLVの基質同定および酸化還元電位測定に取り組んだ。当該研究成果は現段階において公表には至っておらず、平成29年度の最も大きな課題である。 平成29年度には、同定した基質の情報を元に、タンパク質の結晶構造解析等より詳細なFLVの性質解明に挑む。これらin vitroにおける精密な酵素性質解析を経て得られた酵素情報を参考に、生理レベルでのFLV活性制御モデルを構築する。 さらには、FLVにおいて基質結合部位に該当すると予想される候補アミノ酸残基に点変異を導入し、リコンビナントタンパク質の活性測定を経て、シアノバクテリア野生株に当該アミノ酸残基置換の変異を導入する。これら一連の実験を通して、in vivoにおけるFLV基質の実証および基質結合部位の解明が可能である。
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