研究実績の概要 |
タルホコムギはパンコムギにDゲノムを提供した2倍体野生種である。タルホコムギの有用遺伝子は二粒系コムギとの種間交雑により作出される合成パンコムギを介して、これまでもパンコムギに利用されてきた。しかし、タルホコムギの種内変異の包括的な評価は十分になされておらず、タルホコムギを遺伝資源として体系的にパンコムギ育種に利用するためには、ゲノム情報をはじめとする最新のツールを用いた種内変異の再評価が求められている。本研究では、タルホコムギの詳細な集団構造の解明と遺伝的多様性の評価を目的に、コアコレクション210系統のRNA-seqデータに基づくゲノム網羅的な多型検出を試みた。 昨年度の10系統に続き、残る200系統のRNA-seq解析を行った。先の10系統のRNA-seqリードから構築した転写産物に対して200系統のリードをアライメントしたところ、9,610のnon-redundant SNP siteが検出され、各染色体に1,000以上のSNPが配置された。また、主成分分析によりlineageを概ね正確に区別することができた。パンコムギDゲノムはこの中でsublineage TauL2bの系統群の近くに位置した。この結果は、パンコムギの成立に関与したタルホコムギはTauL2b系統であったとする先行研究の内容と一致した。しかし、ゲノム全体の多型情報を用いた先行研究においてはTauL2bの系統群とパンコムギDゲノムとの間に明確な分化がみられたのに対し、遺伝子領域の多型情報のみを用いた今回の解析ではそのような分化は認められなかった。このことから、パンコムギ成立に際しTauL2b系統からパンコムギへDゲノムが提供され、その後の過程で遺伝子間領域に変異が蓄積した可能性が示唆された。この多型情報のデータセットはすでに集積されているタルホコムギコアコレクションの様々な表現型データとの関連解析にすぐに適用可能であり、タルホコムギに遺伝的多様性をもたらす遺伝子座の同定に有力なツールとなることが期待できる。
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