本研究は固体酸化物型燃料電池(SOFC)の多孔質電極内反応場分布を,反応のクエンチと同位体ラベリングを用いて明らかにしようとするものである.昨年度までに,ヘリウムガスの衝突噴流によるSOFCのクエンチと酸素同位体ラベリングにより,空気極の反応場分布を電極微構造スケールで取得することに成功している.このため本年度は,同手法を用いてLSM(ランタンストロンチウムマンガナイト)/YSZ(イットリア安定化ジルコニア)空気極内部の反応場をより詳細かつ定量的に調べた. 酸化物イオンの拡散が速い電解質(YSZ)部分における同位体酸素分布を得るために,発電温度を800℃から700℃へと下げて実験を行った.同位体酸素を用いて700℃において発電を行い,その後ヘリウムガスの衝突噴流によってSOFCを1秒程度でクエンチした.クエンチ後の電解質/空気極界面における断面内同位体酸素分布を高空間分解能の二次イオン質量分析計にて計測した.その結果,空気極/電解質界面近傍でのみLSM粒子内部への同位体酸素拡散が見られたことから,この界面近傍で酸素の化学ポテンシャルが大きく低下していること,すなわち過電圧が増加していることが明らかとなった.また可視化結果から得られたYSZ電解質部分の同位体酸素プロファイルを半無限固体の1次元拡散方程式にて解析し,そこから電解質/空気極界面における酸化物イオンフラックスを定量的に見積もった.その結果,空気極から流れ込む酸化物イオンフラックスのうちの2~3割が電解質/空気極界面から,残りの7~8割が多孔質空気極部分から流入していることが明らかとなった.
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