前年度までに,当研究室で開発したpMAIRS法の定量精度を大幅に向上させることに成功し,実用的なデバイス材料の構造解析へ応用する準備が整った.また,pMAIRS法と微小角入射X線回折法(GIXD)を組み合わせた解析が,薄膜中の分子配向と結晶多形の相関を明瞭に明らかにできることも示した.今年度は,このpMAIRS-GIXD法を基軸として,様々な有機半導体材料に応用することで,薄膜の製膜手法(湿式・乾式)や製膜パラメータが薄膜構造に与える影響の統一的理解を目指した. まず,代表的な高分子半導体材料であるP3HT薄膜の構造解析を行った.pMAIRS法を主体とする解析により,塗布膜作製時の溶媒の揮発時間が構造制御の重要因子であることを示し,このときの結晶性と分子配向の相関を詳細に調べた.この結果,分子配向(配向角)と結晶性には線形的な相関があり,結晶性が低くなる程,face-on配向成分が増加することを定量的に明らかにした. さらに,可溶性低分子材料として知られるポルフィリン誘導体(ZnTPP)を用いて,乾式プロセスと湿式プロセスの統一的理解を目指した.昨年度までに,塗布法で作製した薄膜については詳細に調べたため,本年度は蒸着法で作製した薄膜の構造解析を行った.この結果,高速蒸着を行うことで,動的トラップされた“配向した”アモルファス薄膜が形成されることを明らかにした.この薄膜試料は,X線の回折ピークを全く持たず,pMAIRS法を用いることではじめて配向している証拠を掴むことができた.
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