研究課題/領域番号 |
16J03534
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
仲谷 崚平 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 原始惑星系円盤 / 惑星形成 / 数値シミュレーション |
研究実績の概要 |
原始惑星系円盤は惑星系が形成される現場であるため、その物理・化学的な性質を明らかにすることは惑星形成を明らかにする上で重要である。その中でも本研究では、円盤が形成されて消失するまでの時間である円盤寿命が金属量に依ってどのような振る舞いを示すのかを研究している。円盤寿命は惑星形成時間を制限するため、これを明らかにすることは理論的・観測的な観点から重要である。また、その金属量依存性を明らかにすることは、惑星形成が起こりうる環境や時代について示唆を与えることができると考えられる。 今年度は、自ら開発した輻射流体コードを用いて、超紫外線・遠紫外線照射による円盤ガスの光蒸発をシミュレーションし、光蒸発率の金属量依存性を明らかにした。超紫外線による加熱は金属量依存性を示さないが、遠紫外線による加熱は、高金属量になるほど加熱源が多く存在するという性質と円盤ガスの高密度領域まで浸透しにくくなるという性質の二つを持つことが示された。この二つの性質のうち、前者は金属量が上がるほど光蒸発率を増大させる傾向を持ち、後者は光蒸発率を減少させる傾向を持つ。その帰結として、シミュレーションから得た光蒸発率は0.5太陽金属量程度でピークを持ち、それよりも高金属量側および低金属量側の両領域で減少することが明らかとなった。この光蒸発率の結果から、原始惑星系円盤寿命は低金属量および高金属量で長く、0.5太陽金属量程度で最も短くなることが示唆される。 本研究成果は、三件の国内学会・研究会、一件の国際学会にて発表をした。また、本研究成果を学術誌に投稿するため、論文にまとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、輻射輸送・化学反応を取り入れて流体シミュレーションをするため、計算コストが高い。したがって、シミュレーションを実行すると、当初の見積もりよりも数倍計算時間が長くなるという事態がしばしば起こり、実際に本研究でもそれが起こった。計算時間を可能な限り節約するために、コードを調整するなどして対策を行ったが、コードを調整する度にテストが必要となるため、当初の予定にはなかった時間を多く消費することとなった。 このように不測な事態が起こりはしたものの、計画に沿って原始惑星系円盤光蒸発のシミュレーションを行い、光蒸発・円盤寿命の金属量依存性を得た。また、自己重力モジュールの実装も海外共同研究者のR.Kuiper氏との共同研究の下、概ね完了している。さらに、次の研究へのステップとしてX線による光蒸発を研究する必要があると考えられたため、当初の予定に加えてさらに追加でX線加熱を計算するモジュールを開発してそれをコードに実装した。 以上のように、当初の予定より多くの時間消費が必要であったが、研究計画に沿った研究の進捗が認められる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は超紫外線・遠紫外線による加熱によって生じる光蒸発の金属量依存性を明らかにした。一方で、先行研究では光蒸発を誘起する加熱源として、超紫外線・遠紫外線の他にX線も提唱されている。X線光蒸発の金属量依存性は静流体力学的に原始惑星系円盤の熱化学構造を解くことで導かれている。しかし、今年度の我々の研究結果により、動流体力学的に光蒸発率依存性を導くことが重要であるということが示唆された。流体シミュレーションによって、原始惑星系円盤光蒸発の金属量依存性を導くことは先行研究に例がなく、また遠紫外線・超紫外線・X線の全てを輻射加熱源として取り入れた流体シミュレーションも先行研究ではない。したがって、本研究の次ステップとして、X線による光蒸発率金属量依存性についても今後明らかにする。
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