研究課題/領域番号 |
16J03566
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
正井 宏 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 超分子化学 / ポリロタキサン |
研究実績の概要 |
本年度は、トポロジカルな構造変化が材料の光学特性に与える影響を明らかにするため、様々な機能性ユニットを導入した環動ゲル材料を合成した。αシクロデキストリンを環状分子とし、軸分子としてポリエチレングリコールを用いた擬ロタキサン構造を合成し、蛍光発光分子を両末端にストッパーとしての導入を試みたところ、目的分子の合成に成功した。これらのポリロタキサンは、種々の分子量を有する軸分子に対しても合成が可能であり、同時にシクロデキストリンのヒドロキシル基には様々な分子修飾が可能である。従って、軸分子量に基づくゲルの特性の変化を系統的に評価できるだけでなく、分子修飾によってシクロデキストリン間の相互作用を制御すると同時に、ゲルに膨潤特性を付与することにも成功した。次に、これらのポリロタキサンを用いたゲル材料の作製および発光特性を評価した。主鎖の重合度や環状分子の導入率、架橋率といった各種パラメータを系統的に探索したところ、ゲル溶媒や主鎖重合度に基づき発光色が変化するゲルが得られた。 また、ポリマー主鎖中に比較的小さなストッパーユニットを共重合により導入することで、応力に対して段階的に作用するラチェットストッパーとしての可能性を開拓した。置換アリール基や分岐したアルキル基を主鎖に導入するために、擬ポリロタキサンに対して種々の小分子との共重合反応を行うことで、一定間隔で望みのユニットが導入されたポリロタキサン構造を得ることに成功した。さらに、貫通現象における活性化エネルギーに関する知見を得るため、ポリロタキサンの両末端に様々なサイズの置換基を有する擬ロタキサンを合成し、脱包接速度を比較したところ、十分な速度論的安定性を有する擬ポリロタキサンを形成することが明らかとなった。高い活性化障壁のために、得られた擬ロタキサンは低包接率であり、その値は従来のポリロタキサンを大きく下回る約2%と算出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、両末端に蛍光発光ユニットを導入したポリロタキサンの合成に成功すると共に、本材料を用いて蛍光発光を示す環動ゲル材料を得た。主鎖重合度や包接率、環修飾などを系統的に検討し、蛍光発光ゲルを作製した。その検討の中で、メカノクロミック現象を効率的に発現するための着想を得て、現在は新設計に基づく環動架橋分子の合成に取り組んでいる。また、特異な力学応答性を目指し、ポリロタキサン主鎖骨格に比較的小さなストッパーを導入する検討においては、擬ロタキサンとの共重合法の開発と新しい擬ストッパーとなり得るユニットを発見することにも成功するなど、数々の新しい知見も創出している。この様に、当初の研究計画を着実に遂行し成果をあげており、最終目標としている力学応答材料の達成は大いに期待されるとともに、一部においては 研究計画を超える成果も見受けられた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に得られた知見に基づき、力学刺激に対して光特性の変化を出力可能なセンサ材料を創成を目指す。両末端に蛍光発光ユニットを導入したポリロタキサンから形成されるゲル材料は、環動ゲル材料を形成する高分子ネットワークに応力を印加した際、環動架橋点である8の字型分子に応力が集中せず、光学特性の変化をもたらすに足る環駆動が生じななかった。従って力学応答の発現には、わずかな環駆動だけでも発光特性が変化する分子設計・材料設計が必要となる。そこで材料設計を修正し、環動ユニットをポリマーネットワーク全体ではなく、ゲルの応力が集中する架橋点にのみに導入し、かつわずかな環駆動によって光学特性が変化できるように、発光ユニットと環状分子の初期配置を接近させた新規[3]ロタキサン型の架橋分子を提案し、その合成を目指す。 また、低包接なポリロタキサンを容易に合成する設計指針が得られたことから、この手法を発展させることで低包接ポリロタキサンに基づく環動材料を作製する。材料の力学物性や内部構造を詳細に解析することで、低包接材料の特異性や、材料特性と包接率の関係性を明らかにする。
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