本研究の目的は、ロタキサンのトポロジカル構造変化を駆使して、力学刺激に対する物性変化を出力可能なセンサ材料を創成することである。本年度は比較的小さなストッパーユニットを軸中に導入することで、応力に対して段階的に作用するラチェットストッパーとしての可能性を開拓した。昨年度に偶然得られた知見に基づき、ベンゼン誘導体を両端に導入したポリエチレングリコール鎖を合成し、この軸に対するαシクロデキストリンのポリロタキサン形成過程を追跡した。この検討を元に、貫通現象における軸の立体的なサイズと活性化エネルギーに関する知見を得ることによって、環状分子のシャトリングにおいて立体的に影響を与えうる軸分子骨格を明らかにすることが期待される。 ジメチレンアミン-p-キシレンを両端に導入したポリエチレングリコール鎖に対して、先程と同様に包接及び末端封鎖を行うことでポリロタキサンを合成したところ、その包接率は1-2%と算出され、特異的に働く位置ではわずかな立体が包接率に影響することが示された。反応の収率や精製純度などの点で、未だ問題は多いものの、低包接なポリロタキサンを容易に合成する設計指針を与えるとともに、低包接率に基づく環動ゲルの優れた力学特性の発現が期待される。実際、得られたポリロタキサンは、従来の包接率を有するポリロタキサンに対して両溶媒であったジメチルスルホキシドに対する溶解性が極めて低い。これは分子全体に対する環の割合が低いことで、軸の性質が強く表れたためであり、本材料はこれまでとは異なる物性や材料特性の発現が期待される。
|