本年度は,目的を達成するために「行動変容促進プラットフォームの開発と実証実験」と「システムとしてのコミュニティの関係性シミュレーション」を行った. 前年度までは,自らが意識せずに発信するデータ(位置情報やすれ違ったかの情報)を中心に収集し,分析することを重点課題としていた.しかし分析の過程で,自発的に発信されたデータの共有による行動変容の促進が地域活性化を促し,地域課題の発見に寄与すると予備的に観察することができた.そこで,住民が地域について気付いたことを写真に収め,それを「散歩におすすめの場所を投稿するマップ」と「子どもにとって危険な場所を投稿するマップ」に投稿でき,その情報が共有できるようにした.次に,この改修によって完成した行動変容促進プラットフォームを用いて,実際に行動が変容し,地域課題の発見に寄与できるかを検証するための実証実験を行った.実証実験の結果,住民は幹線道路周辺,特に交差点の写真を多く投稿しており,交通情報に対して関心があることが分かり,実際に自治体などが発行している交通安全マップと類似点があった. 本研究では,関係性を可視化・定量化するための枠組みとして,「関係資産」を定義した.これは,ヒト・モノ・コトとの関わり,相互依存,それらの連携・運動により生じる互酬性と信頼性の規範を意味する.さらに,この関係資産を獲得する方法として,関係資産を応援したい人に贈与し,関係資産の循環を促すためのGift & Circulationモデルを,システムダイナミクスによって構築した.また,Gift & Circulationモデルの導入による行動変化をシミュレーションするために,マルチエージェントシミュレーションも構築した.これらによって,エージェント同士の振る舞いを観測したり,実証実験で収集した実データから生成した関係資産との比較検証をしたりすることが可能となった.
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