研究課題/領域番号 |
16J03619
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
東川 翔 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 対称性の破れ / トポロジカル励起 |
研究実績の概要 |
平成28年度は対称性の破れた相の分類に関して、Lie代数の表現を用いたアプローチに基づいて研究した。対称性の破れは自然界に普遍的に現れる現象であり、強磁性体や超伝導体を含む多くの物質は対称性の破れによって理解できる。従って、対称性の破れた相とそこで現れるNambu-Goldstoneモードやトポロジカル励起を分類し、系統的に理解する方法を開発することは、新奇な凝縮相を探索する上で重要である。平成28年度はLie代数とその表現を用いてこの問題に取り組み、対称性の破れた相の多くでは基底状態が同時対角化できる部分Lie代数(Cartan部分代数)の固有状態になっていることを発見し、これらをμ-symmetry breakingと名付けた。具体的には、強磁性体や反強磁性体、スカラーBose-Einstein凝縮体(BEC)、スピン1のスピナーBECの強磁性相及びポーラー相などがμ-symmetry breakingに属する。μ-symmetry breakingに属する相に対してはCartan部分代数の固有値によって系統的な分類が可能であり、Nambu-Goldstoneモードやトポロジカル励起に関しても先行研究で知られている公式よりも簡便な線形代数的手法で計算できることを発見した。特に、Nambu-Goldstoneモードの分散関係を記述する有効ラグランジアンは、Lie代数の標準的な基底であるCartan標準形を用いて対角化される。Nambu-Goldstoneモードは、u(1)Lie代数に対応した巨視的波動関数の位相の揺らぎを記述するモード、su(2)Lie代数に対応した一般化されたSU(2)スピンの歳差運動を記述する放物型分散のモード、su(2)Lie代数に対応した一般化されたSU(2)スピンの振動運動を記述する線形分散のモードの3種類に分類される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は物理学において基本的な役割を果たす対称性の破れとそこに発現するトポロジカル励起に関する基礎研究に取り組んでいます。これらは物理学の広範な領域で重要な役割を果たす普遍的な概念である一方で、様々な分野において異なった専門用語で議論され、また、物理だけでなく数学の専門知識が要求される難易度の高い研究分野である。東川君は物性物理学から素粒子論にわたる広範囲な文献を研究したうえで、これまで2つの重要な研究を行った。まず、Lie代数の表現論に基づいて対称性の破れとNambu-Goldstoneモードを含むトポロジカル励起の系統的に調べる方法論を構築した。次に、異なったトポロジカル励起が共存する場合はトポロジカル不変量が保存しない場合が存在するという、これまで個別的に調べられていた現象をWhitehead 積という数学的手法を用いて系統的に調べ上げることができる理論を構築した。これは今後のさらなる発展が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は28年度の研究の中でもトポロジカル励起に関する部分を発展させ、(1)トポロジカル励起の共存系の一般論の構築を行い、(2)トポロジカル絶縁体・超伝導体への応用を考える。 (1)28年度はホモトピー群を計算する公式を開発し、これを用いてスカーミオンなどのトポロジカル励起が統一的に扱う枠組みを構築した。本年度はこれをトポロジカル励起の共存系の研究に応用する。共存系の重要な点は、全系のトポロジカルチャージが必ずしも保存されない点である(Topological influence)。しかしながら、先行研究での共存系の研究は個別的であり、全系のトポロジカルチャージが保存されないための条件は明らかでなかった。29年度は前年度に導いたホモトピー群の計算公式を応用し、共存系の一般論を構築する。さらに、数値計算によりトポロジカルチャージの非保存を実証し、冷却原子気体や固体物理での実装方法を提案する。 (2)近年Hopf絶縁体やノードのある超伝導体などで、異なる次元のトポロジカル数が共存する場合、片方のトポロジカル数が変化することが指摘されている。これは、トポロジカル励起でのTopological Influenceのトポロジカル絶縁体・超伝導体での類似物であり、(1)の理論が応用できる。まず、先行研究で知られている例をホモトピー群の文脈で解釈し直す。続いて、トポロジカル絶縁体・超伝導体の分類表の10個のカテゴリに対して、共存の可能性を探索し、新奇な共存相があるかを調べる。また、共存状態でのエッジ状態を調べる。
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