研究課題/領域番号 |
16J03619
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
東川 翔 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | トポロジカル物質科学 / 対称性の破れ / トポロジカル励起 / ワイル半金属 / カイラル磁気効果 |
研究実績の概要 |
平成29年4月から平成29年5月にかけてトポロジカル励起の共存系の研究を行った。この研究で私は、渦の存在下ではスカーミオンのトポロジカルチャージが必ずしも保存されず、スカーミオン対が連続的に生成できることを発見した。渦が存在しない場合にはスカーミオン対の連続的な生成はトポロジカルに禁止されている、スカーミオン対の生成の前後で影響を受けないという2点から、渦がスカーミオン対の生成において「触媒」としての役割を果たしているということができる。上記の結果は、触媒によるトポロジカル励起の連続的な生成と消滅を可能にすると同時に、トポロジカル励起の共存系においてトポロジーが重要な役割を果たす数少ない例の一つであり、トポロジカル励起の研究に重要な知見を与えるものと期待される。 上述のトポロジカル励起の共存系の研究と並行して、平成29年5月から平成30年3月まで周期駆動系で現れるワイルフェルミオンについての研究を行った。この研究で私は、周期駆動された結晶系は(エネルギー方向の周期性のために)ニールセン・二宮の定理の制約を受けず、単一のワイルフェルミオンが現れうることを発見し、その具体的な格子模型を構成した。ワイルフェルミオンのスピン運動量固定を反映して、スピン偏極した波束は1周期のポンプでスピンに平行な方向に1サイト分だけ移動する。さらに、この系に磁場をかけた状態で1周期ポンプすると波束は磁場に平行な方向に移動する。これはカイラル磁気効果の周期駆動系でのアナロジーである。さらに上記の模型の冷却原子気体で実装方法についても議論した。以上の結果はトポロジカル半金属についての基本的な定理であるニールセン・二宮の定理の制約を、非平衡性を取り入れることで超えるものであり、トポロジカル絶縁体・半金属の研究に重要な知見を与えるものと期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度はトポロジカル励起の共存系と周期駆動系に関して2つの注目すべき成果を挙げた。前者の研究においては、複数のトポロジカル励起が共存する場合は一方が他方の多様体の構造を本質的に変えてしまうことに起因して、トポロジカル励起を連続的に生成できるという新しい結果を得た。後者の研究では、周期駆動系では、ブリルアンゾーンの周期系に起因するニールセン・二宮の定理の制約からが解放されることを指摘し、単一のワイルフェルミオンが現れうることを発見した。具体的に構成されたモデルはサウレスポンプの3次元版であり、非平衡物理がニールセン・二宮の定理という基本的制約を逃れるキーであることを具体的に示した点に意義がある。いずれの研究成果もトポロジカル量子現象の理解の進展に寄与するものであると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる本年度はトポロジカル励起の共存系についての研究を発展させ、(1)トポロジカル励起の触媒効果の研究、(2)トポロジカル絶縁体・超伝導体におけるトポロジカル不変量の共存と干渉効果の研究を行う予定である。 (1)前年度まで研究で、特異性のあるトポロジカル励起(渦やモノポールなど)と特異性のないトポロジカル励起(スカーミオンやノットなど)が共存する場合、後者を連続的に生成・消滅させることができることが理論的に明らかになった。本年度はこの研究を発展させ、冷却原子気体や固体物理での実験的な実装方法について研究し、論文にまとめる予定である。冷却原子気体での実装系としては2次元スピン1のBECのポーラー相における、渦とスカーミオンの共存系やモノポールとノットの共存系を考え、Gross-Pitaevski方程式の数値計算を行う。固体物理での実装系としては、2次元反強磁性スカーミオン相での格子欠陥とスカーミオンの共存系を考え、LLG方程式の数値計算を行う。 (2)近年、Hopf絶縁体やノードのあるトポロジカル絶縁体・超伝導体でトポロジカル不変量の共存により片方のトポロジカル不変量が変化することが指摘されている。これは上述のTopological Influenceの波数空間でのアナロジーというべきものであり、これまでの私の研究と密接に関係している。前年度はトポロジカル不変量の変化が起こる具体的な模型を構築し、エッジ状態の分散関係と安定性を調べた。本年度はこれらの模型の冷却原子気体や光学系、固体物理での実験的な実装方法について研究し、論文にまとめる予定である。必要に応じて、共同研究者である佐藤昌利氏のいる京都大学に出張し、議論しながら研究を進める。
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