平成28年4月から平成29年3月まではフロケエンジニアリングの手法の拡張に取り組んだ。フロケエンジニアリングは、フロケ理論と呼ばれる線形方程式に対する数学理論に基づいて展開されるが、線形方程式の典型的な例はシュレディンガー方程式である。このためフロケエンジニアリングの適用範囲はこれまで孤立量子系に制限され、基本方程式が非線型である古典開放系、及びブラウン運動のような確率過程に支配された微小系には使えないという困難があった。以上の問題に対して今回の研究では、非線形方程式や確率過程が線形なマスター方程式にマップできることに着目して非線形性に伴う問題を克服し、フロケエンジニアリングの適用範囲を古典系や確率過程に拡大することに成功した。さらに、得られた理論を熱浴と結合した古典磁性体のレーザー下でのダイナミクスの問題に応用し、その磁化がレーザーの強度と周波数を変えることで制御できることを示した。 平成28年4月から平成29年3月まではフロケエンジニアリングのトポロジカル物性物理への応用について研究をした。ワイル半金属とはトポロジカル物質の一つであり、その素励起であるワイルフェルミオンはカイラル磁気効果と呼ばれる特異な磁場応答(磁場に平行に電流が流れる)を示す。しかし、ワイル半金属ではワイルフェルミオンが必ず対で現れる(ニールセン・二宮の定理)ために熱平衡状態ではカイラル磁気効果は現れないことが示されていた。上記の問題に対して今回の研究では、まず周期駆動系ではニールセン・二宮の定理が成立せず、カイラル磁気効果が現れうることを明らかにした。更に、ワイルフェルミオンが単独で存在する周期駆動系の模型を構成し、それがカイラル磁気効果を示すことを実証した。最後に、以上の研究を対称性を持つ系にも拡張し、周期駆動系で現れるギャップレストポロジカル励起の分類をし、その包括的理論を構築した。
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