研究課題/領域番号 |
16J03625
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
萩尾 華子 名古屋大学, 生命農学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 視覚路 / マハゼ / 視覚刺激 / シトクロム酸化酵素活性 |
研究実績の概要 |
魚がものをどのように見ているのかその詳細はわかっておらず、特に魚類の間脳や終脳(大脳)における視覚情報処理についてはほとんど調べられていない。本研究では、魚類の視覚系の機能を解明するために、視覚刺激により活動するニューロンの局在を調べ、それらのニューロンが、視覚対象の形態や色、動きなどの「どのような視覚刺激」に実際に応答しているのかを調べることを目的としている。それぞれの視覚刺激に応答したニューロンの局在および応答の違いを比較検討し、魚類にとって重要な視覚情報の特徴について考察する。 実験には、視覚情報が網膜から終脳に至る視覚路をトレーサーを用いて形態学的に明らかにしたマハゼを用いた。光刺激により活動するニューロンの局在を調べるために、マハゼを容器に入れ、光刺激を与えた。光刺激は、光のON(照射2秒間)とOFF(消灯2秒間)を交互に5分間繰り返した。ニューロンが応答した時に活性化されるc-Fosなどに対する抗体を用いて免疫組織化学実験を行った。免疫組織化学の結果は、視覚路の脳部位において、光刺激により活動したニューロンがわずかに見られたが、明確な結果を得ることができなかった。そこで、シトクロム酸化酵素活性を調べることにより、光視覚刺激によって活性化する脳部位を調べた。ニューロンが活性化すると、ミトコンドリアの電子伝達系のシトクロム酸化酵素が活性化する。片眼を除去したマハゼに、光のON-OFF刺激を5分間与え、シトクロム酸化酵素組織化学を行った。視神経は完全交叉であるので、除去した片眼の反対側の視蓋はシトクロム酸化酵素の活性が低く、光刺激情報を受け取る側の視蓋は光刺激により酵素活性が上昇した。前視床核と終脳背側野においても酵素活性が上昇した。よって、トレーサーで調べた視覚路は、光刺激によって活性化するということが明らかになった。得られた研究成果を学会等で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
形態学的に調べた視覚路の機能に関する研究の第一歩として、トレーサーで調べたマハゼの視覚路は、光刺激によるシトクロム酸化酵素の活性上昇が見られたことで、光刺激によって活性化するということが明らかになった。おおむね順調に進展しているといえる。 しかし、視覚刺激実験の研究対象として、マハゼには限界があることも明らかになってきた。ニューロンが応答した時に活性化されるc-Fosなどに対する抗体を用いて免疫組織化学実験も行った。トレーサーで調べた視覚路の脳部位において、光刺激によって活動したニューロンがわずかに見られたが、明確な結果を得ることができなかった。理由は、c-Fosなどに対する抗体の特異性が実験対象であるマハゼと合わなかった可能性が考えられた。また、中型魚であるマハゼに適した視覚刺激を与えることが困難であることもわかった。抗体特異性が合致する可能性が高く、マハゼよりも体長が短い小型魚を用いる必要があったため、視覚路が明らかになりつつあるヒメダカを用いて同様の実験も始めた。免疫組織化学では抗体特異性がかなり合致したが、暗室に入れたコントロールと暗室で光刺激のみを与えた個体を比較したところ、c-Fosの差が小さかった。ヒメダカを用いたシトクロム酸化酵素組織化学にも現在、取り組んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
マハゼの光刺激によって活性化する脳部位を確定するため、シトクロム酸化酵素組織化学の実験の改善を行い、酵素活性の定量分析も行う。抗体特異性における問題などが改善されない場合は、抗体特異性が合致する可能性が高くてマハゼよりも体長が短い小型魚であるヒメダカを用いて、免疫組織組織化学やシトクロム酸化酵素組織化学などを行う。 マハゼで光刺激によって活性化する脳部位が明らかになったので、光刺激によって活性化する脳部位におけるニューロン応答を細胞内のカルシウム濃度変化を指標にカルシウムイメージングで観察する予定である。 さらに、指導教員とつながりがあるフランスのCentre national de la recherche scientifique (CNRS)研究所において、遺伝子Aが発現している脳部位が視覚中継部位である可能性が浮上したので、その部位を特定するとともに、複数の魚種でも発現を確認するため、フランスへ渡航して研究を行う予定である。分子生物学的手法を習得して、研究をより発展させたいとも考えている。得られた研究成果について論文を執筆して、国際学会や国内学会で研究発表をする予定である。
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