研究実績の概要 |
1.後天性免疫不全症候群の原因となっているヒト免疫不全ウイルス(HIV)の感染性の研究を、ウイルス感染実験と数理モデルを組み合わせる事で行なった。HIVはヒトとチンパンジーにしか感染せず、実験動物が存在しない事が研究を遂行する上での困難の1つである。ここで、サルに感染し免疫不全を引き起こすウイルス(SIV)とHIVを掛け合わせたキメラウイルスSHIVは,サル由来の細胞に感染し、さらにHIVと同等の感染動態,症状を表すと考えられている。本研究では、SHIVの中でも強い病原性を持ち、免疫不全を引き起こすSHIV-KS661と、免疫不全を引き起こさないSHIV-#64の病原性の違いが何に起因するのかを、数理モデルを用いたウイルス感染実験の解析により定量的に明らかにしようと試みた。解析の結果、SHIV-KS661はSHIV-#64に比べて、感染性を持ったウイルスを産生しやすい事が分かった。すなわち、SHIV-KS661は感染性を持ったウイルスをより多く産生するので、強い病原性を持っている事が示唆された。本研究成果は、国際誌 Theoretical Biology and Medical Modelingに掲載された。 2.B型肝炎ウイルスは世界でおよそ2億4千万人が慢性感染しており、根治に向けた効果的な薬剤が開発されていないのが現状である。根治の障壁となっているのは、感染細胞内に長期間残存している、cccDNAと呼ばれる物質だと考えられている。そこで本研究では、感染細胞内のcccDNAの複製動態の定量化、すなわちcccDNAの半減期の推定や、生成されたHBVDNAからcccDNAヘのリサイクル率などを調べた。ウイルス感染実験と数理モデルを用いた解析の結果、cccDNAの半減期はおよそ3.6日であり、cccDNAへのリサイクル率はおよそ8%である事が推定された。
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