1.宿主免疫応答で重要であるインターフェロンαがヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)の2種感染様式(cell-free感染とcell-to-cell感染)に与える影響を調査した。具体的には、cell-free感染とcell-to-cell感染を区別できるウイルス感染実験を実施し、時系列データを取得する。取得された時系列データをうまく説明できるような数理モデルを開発し、ベイズ推定を用いたモデル適合を行なった。解析の結果、インターフェロンαはcell-to-cell感染を抑制し、cell-free感染を促進することを示唆した。 2.B型肝炎ウイルスは、現在のところウイルス排除が達成可能な抗ウイルス薬は開発されていない。ウイルス排除が困難である主な原因は、感染細胞内に長期間残存しているウイルス由来物質(cccDNA)であることがこれまでの研究において分かっている。そこで本研究では、初代培養肝細胞を用いたHBV感染実験を実施し、細胞内のウイルス複製動態の時系列データを取得した。取得した時系列データに対して、ウイルス感染実験をうまく説明できるような数理モデルを開発し、定量的解析を行なった。解析の結果、cccDNAはおよそ20日という非常に長い半減期を持つことを明らかにした。本研究ではこのような細胞内のウイルス複製動態に加え、細胞間のウイルス感染を考慮したマルチスケールモデルを開発し、そこからウイルスの適応度である基本再生産数を導出した。このように導出した基本再生産数を用いて、今年度行なった初代培養細胞におけるHBV感染と昨年度解析を行なったHep38.7-Tet細胞系における基本再生産数を比較し、生物学的な議論を展開した。本研究成果は、現在国際誌への投稿準備を進めている。
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