研究課題/領域番号 |
16J03685
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
久保田 さゆり 千葉大学, 大学院人文社会科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | 動物倫理 / ペット動物 / 徳倫理 / ニーズ論 / T. ザミール / 人間と動物の関係 / 哲学と文学作品 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、人と動物が実際に結ぶ個別的な関係に注目することによって、主流とされてきた功利主義や義務論に基づく動物倫理の議論とは異なる仕方で、動物への配慮を主張するための枠組みを提出することである。そのために、課題(1)として、個別の状況における動物への対応について、徳倫理およびケアの倫理に基づく場合と他の理論の場合とを比較検討し、それらの理論が動物倫理に関してもつそれぞれの意義を明らかにすること、さらに課題(2)として、徳倫理およびケアの倫理と他の倫理理論との関係を特定し、両理論のもつ役割を明らかにすること、という2つの課題を設定している。 今年度は、特に課題(1)に中心的に取り組むことで、動物への配慮を論じるのにふさわしいアプローチを検討してきた。その具体的な成果として、博士論文「動物の倫理的重みと人間の責務―動物倫理の方法と課題―」を作成し、2017年3月に千葉大学大学院人文社会科学研究科から学位を授与された。本論文の特徴は、動物倫理の議論を説得的なものにするために、次のような観点から議論を展開する点にある。まず、われわれが当たり前にもちうる動物理解を、理論の枠にとらわれず、より豊かな仕方で描き、その含意を明確化すること、動物が人間との関係に応じてもつようになった特徴をも考慮に入れることである。そして、動物のもつ倫理的重みという「動物をめぐる議論」と、動物をどのように理解し、そう理解された動物とどのように向かい合うべきかという「人間をめぐる議論」の両面から論じることである。 今年度の研究を通して、功利主義や義務論といった理論的立場に基づく動物倫理とは異なる仕方で動物への配慮を論じるひとつの枠組みを提出することができたと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
博士論文を執筆し、特定の理論的立場に基づく動物倫理とは異なる仕方で動物への配慮を論じるひとつの枠組みを提出することができた点は特に評価できると考える。博士論文においては特に、動物倫理の議論が、動物という、倫理的配慮の対象でありうるということ自体が十分には受けいれられていない存在をめぐる議論だという点に着目した。そのことによって、そうした対象をめぐる議論を説得的なものとして構築するという観点が動物倫理の議論には必要であるということを、今後の研究において引き続き念頭に置くべき問題意識として明確化することができた。 以上から、おおむね順調に研究が進捗していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の方針としては、まず、課題(2)として、徳倫理およびケアの倫理と他の理論との関係を特定し、両理論のもつ役割を明らかにするという課題に取り組む。それにより、今年度の研究成果がもつ倫理学における位置づけを検討するとともに、徳倫理およびケアの倫理のもつ意義を明確化する。そして、今年度の研究を通して得られた枠組みについて、さらに、さまざまな現実の状況を参照し、その適用の際に考慮すべきことを確定していくこと、また、たとえばパティキュラリズムといった倫理的立場との関連を明確化していくことが必要である。
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