研究課題
本研究の目的は,スクリプト遂行の発達メカニズムを実行機能との関連から明らかにすることである。スクリプトはある場面においてよく経験される行為の連続から構成される。このスクリプトを柔軟に遂行するためには, 行為系列全体で果たされるべき上位目標と次にどのような行為をするのかの下位目標を同時に保持する必要がある。本研究ではこうした目標の階層性の保持に着目し, 幼児期のスクリプトの遂行メカニズムを検討した。本研究では人形に服を着せる順序により, 幼児が上位目標または下位目標を保持しているか, どちらも保持できていないかを区別するパラダイムを作成した。目標保持状態の区別のために, 下位目標を活性させる群(次に何を着せるか聞き続ける)とそうでない群を設けた。その結果, 4歳児では上位目標を保持することが難しく, 順序への妨害(間違った順序で服がタンスから出てくる)の影響を受けやすいことが示された。一方, 5歳児では上位目標を保持しつつ順序への妨害に対処できていた。また, 上位目標の保持と実行機能が関連することも示された。本研究は行為系列の遂行, 実行機能, 目標の保持をつなげる重要な知見を発達研究に提供することが予想され, 2つの実験をまとめ国際誌に投稿した。次に, 今年度は昨年度までに実施した研究がいくつか刊行された。具体的には,スクリプトの柔軟な利用の発達的変化についてまとめた論文が “教育心理学研究” 誌に掲載された。また,幼児がスクリプトの一般性をどう認識しているのかを明らかにした論文が “Psychologia” 誌に掲載された。その他には, 実行機能と言語ラベリングの関係について検討した研究が “京都大学大学院教育学研究科紀要” に掲載された。
2: おおむね順調に進展している
計画通り2つの実験を行い, 英語論文を仕上げ国際誌に投稿・改稿できたため。国際学会において英語での発表も行い、そうした成果発表のみならず、博士論文作成へ向けて、新たな実験を計画したため。
今後も行動指標を用いて,目標の保持が常に一定の強さでなされているか, 流動的に変動するかを検証する予定である。さらに,これまでの研究成果をまとめて,行為系列の遂行に関するレビュー論文を書くことを予定している
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 4件、 謝辞記載あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 3件)
京都大学大学院教育学研究科紀要
巻: 63 ページ: 341-354
http://hdl.handle.net/2433/219236
Psychologia: An International Journal of Psychological Sciences
巻: 58 ページ: 202-219
http://doi.org/10.2117/psysoc.2015.202
教育心理学研究
巻: 64 ページ: 395-406
http://doi.org/10.5926/jjep.64.395
Scientific Reports
巻: 6 ページ: -
10.1038/srep37875