研究実績の概要 |
本研究の目的は,スクリプト獲得・遂行の発達メカニズムを実行機能との関連から明らかにすることである。本年度は, 昨年度までの研究を学会発表・論文執筆の形で成果発表し,新規研究を進めた。 新規研究として, ルーティンの獲得に関わる新たな実験を3つ実施した。本研究では, 幼児のルーティン獲得とその発達を支えるメカニズムを明らかにすることを目的とした。ルーティンの獲得を場面情報の保持の観点から説明するモデル (Botvinick & Plaut, 2004) を幼児に援用することでこの問題にアプローチした。結果, 実行機能の成績が高い子どもでのみ, 成人と同じように, ルーティンを獲得していることが示唆された。具体的には, ルーティン実行中に, 場面情報が区別される必要のある行為 (コーヒーを作る際に, Aさんにはミルクをいれるが, Bさんにはミルクを入れない) をする直前になってはじめて, 場面情報が区別して表象されることが示唆された。これらの結果を共同研究者と議論を重ねたうえで, 論文としてまとめ現在国際誌に投稿中である。 他にも, 今年度は大きな研究の進展があった。コロラド大学のYuko Munakata教授との共同研究を実施し, 日本の幼稚園でデータを収集した。この共同研究を通して, 世界最先端の研究者と深く議論できただけでなく研究の進め方なども学ぶことができた。どのプロジェクトも子どもの心のデザインを考えるうえで非常に重要な知見を提供しうると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度は, 昨年度までに実施した研究がいくつか刊行された。具体的には,階層的目標表象の保持能力の発達がスクリプトの柔軟な遂行を可能にすることが明らかにした論文が “Journal of Experimental Child Psychology” 誌に掲載された。また,系列情報獲得の発達メカニズムをHebb実験法により明らかにした論文が “Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, & Cognition” 誌に掲載された。その他には, 新入園児を対象にスクリプトの獲得課程について検討した研究が “発達心理学研究” に掲載された。 また, 計画通り実験を行い, 英語論文を仕上げ国際誌に改稿できたため。国際学会において英語での発表も行い、そうした成果発表のみならず、博士論文作成へ向けて、新たな実験を計画したため。
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