研究課題/領域番号 |
16J03771
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
小柴 慧太 九州大学, 理学府, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | ニッケル錯体 / 電気化学的水素発生反応 / プロトン共役電子移動 / 分子性触媒 / 電気化学 / DFT計算 |
研究実績の概要 |
当該年度、申請者は電気化学的な水素発生反応を促進する高活性ニッケル錯体触媒の開発を目指し、二つのアプローチで研究を推進した。 一つ目は、我々が以前開発したニッケルビス(ジチオレン)錯体触媒の反応機構解析である。Angew. Chem. Int. Ed. 2017, 56, 4247-4251. にて報告したプロトン受容部位を有するニッケルビス(ジチオレン)錯体の反応機構解析をDFT計算を駆使して行った。DFT計算の計算条件の最適化は、実験値と計算値を比較することで厳密に行い、遷移状態の算出やIRC計算による反応経路探索も行った。その結果、プロトン受容部位導入ジチオレン配位子にて観測される「配位子上でのプロトン共役電子移動(PCET)」が二段階引き起こされることにより、反応中間体であるヒドリド種を形成し水素を生成することを突き止めた。この配位子上でのPCET過程を経由したヒドリド形成、及び水素発生反応は本系にて初めて発見された興味深い反応過程であり、今後の水素発生触媒開発において重要な知見を得た。 二つ目は、ニッケル(ビピリジン)(ジチオレン)錯体触媒系の確立である。先行研究においては、これまでビス(ジチオレン)錯体のみが水素発生触媒として注目されてきた。これまで多くのビス(ジチオレン)錯体が高活性な触媒として報告されている一方で、分子設計において大きな制限となっている事実も存在する。そのため、本アプローチにおいてモノジチオレン錯体、具体的にはニッケル(ビピリジン)(ジチオレン)錯体触媒系の確立を試みた。その結果、本系も水素発生触媒となり得る事実が明らかとなった。さらに興味深いことに、ジチオレン部位にプロトン受容部位を導入した際には、錯体の三電子以上の還元状態が水素発生触媒反応の活性種であることが分かった。この成果は、今後のジチオレン錯体触媒において貴重な知見となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目標である、超高活性な水素生成錯体触媒の開発、具体的には極低過電圧で駆動する水素生成触媒の開発に向け、着実に進んでいる。 研究計画時にはビス(ジチオレン)錯体による本目標の実現を目指していたが、本年度においてその実現妥当性が難しいことが明らかになった。しかしながら迅速に代替案であるモノジチオレン錯体触媒の展開に移行することができ、実際にモノジチオレン錯体が触媒活性を有することを実証できた。ビピリジン-ジチオレン錯体は構造柔軟性が高く、極低過電圧駆動の錯体触媒の設計にも応用が期待できる。引き続き研究目標に向け、新規性進歩性が高い成果を得られていると言える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度得られた成果を基盤に、触媒設計の高度化を試みる。DFT計算を用いた分子設計を活用し、実験結果によるフィードバックも得ながら、設計手法の最適化も行う。 得られた触媒は電気化学的、分光学的に反応機構解析を行う。その際にDFT計算を用いて、高活性触媒の開発と共に触媒反応全体を明らかにする。
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