研究課題/領域番号 |
16J03806
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
川上 知朗 茨城大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | 光合成 / 光合成細菌 / 光捕集タンパク質 / バクテリオクロロフィル / 2価金属イオン |
研究実績の概要 |
本研究では好熱紅色硫黄光合成細菌Thermochromatium(Tch.) tepidum由来の光捕集反応中心複合体LH1-RCの結晶を作製、X線結晶構造解析することにより結晶構造から光捕集・光電変換・電子伝達過程の作動原理の解明を目指とともに、2価金属イオンとの相互作用機構の解明を行う。 申請者らは最近、Tch. tepidum由来LH1-RCの立体構造を3.0Å分解能で決定、LH1上に存在するCaイオン結合部位を特定、近傍のアミノ酸とCaイオンが5配位構造を形成することで高い熱安定性やQy遷移のレッドシフトの関係を示した[Nature 508, 228(2014)]。しかし、現在の分解能では電子密度の不鮮明な部分があり、多くのCaイオンは生体内で7配位構造と報告されている。また、Caイオンは他の2価金属イオンへ置換することで熱安定性やQy遷移がブルーシフトする。 本年度は(1)LH1-RCの高分解能結晶の作製技術の確立、(2)他の2価金属へ置換したLH1-RCの結晶構造の決定を目指した。 その結果、Sr(Ba)置換型のLH1-RCの結晶化・X線結晶構造解析に成功した[Biochemistry 55, 6495 (2016)]。今回解析された結晶構造から金属イオン置換型LH1-RCは、LH1上のCaイオン結合部位に近いものの、明らかに異なる場所に結合していた。Native型LH1-RCではCaイオンがLH1のαとβポリペプチドを架橋し、外側にβ、内側にαが配置する二重のリング構造を形成していた。しかし、一方で金属イオン置換型LH1-RCは内側のαポリペプチドのみで形成された一重のリング構造になっていたことが明らかになった。このことが、αとβポリペプチドの間に挟まれるバクテリオクロロフィルの配向性に変化を生じさせ、LH1のQy遷移や熱安定性が大きく変化したと推測される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Sr(Ba)置換型のLH1-RCの結晶化・X線結晶構造解析に成功し論文を提出できたため[Biochemistry 55, 6495 (2016)]。 過去に当研究室ではTch. tepidum培地調製の際、塩化カルシウムの代わりに塩化ストロンチウムを加えることで生合成の過程で、Sr置換型LH1-RCを調製・結晶化・X線結晶構造解析を行っていた。しかし、結晶が再現良く安定に得られず、得られた結晶も低分解能であった。これは、Sr培養することでTch. tepidum菌体に大きな負荷が掛かり、Sr置換型LH1-RCが不安定化していることが原因だと考えた。 そこで、私はnative培養することで菌体を安定化させ、陰イオン交換クロマトグラフィー(DEAE精製)の過程で塩化ストロンチウム、または塩化バリウムを用いることで比較的安定なSr(Ba)置換型LH1-RCを調整した。これを結晶化することで3.3Å程度の分解能で構造解析に成功、Caイオン結合部位とは異なるSr(Ba)イオン結合部位を明らかにすることができた。この結合部位の違いによりLH1上の色素分子の配向性に微妙な変化が生じ、LH1-RCの熱安定性やLH1のQy遷移が変化したと推測される。
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今後の研究の推進方策 |
Tch. tepidum 由来の水溶性電子伝達タンパク質 HiPIP (high potential iron-sulfur protein)とLH1-RCとの共結晶を作製し、X線結晶構造解析を行う。得られた共結晶の構造からHiPIPとLH1-RC間の電子伝達機構の解明を目指す。Tch. tepidum 由来の反応中心RC(reaction center)はC, H, M, Lサブユニットの4つから構成されており、このうちCサブユニットの大部分は膜外、ペリプラズム側に大きく露出し、補因子として4分子のヘム鉄を持つことが結晶構造から明らかになっている。そして、水溶性電子伝達タンパク質HiPIPは、このCサブユニットのヘム基近傍に静電相互作用することでドッキングし、RCへ電子を引き渡されると考えられている。しかし、この過程がどのように行われているのかはわかっておらず、LH1-RCとHiPIPとの共結晶化の報告もなく、実際にHiPIPとRCへの電子伝達はまだ証明されていない。 そこで、個別に精製したTch. tepidum 由来HiPIPとLH1-RCを化学量論的な割合で混合し、当研究室が確立した結晶化方法で共結晶の作製を目指す。共結晶をX線結晶構造解析することでLH1-RCとHiPIPとの間の電子伝達機構を解明する。
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