本研究はがんの放射線治療後に生じる残存がん細胞の再増殖や、有害事象の発生といった問題を解決するため、腫瘍間質に存在しがん病態に影響を与えることが示唆されている「がん関連線維芽細胞 (CAF)」に着目し、この放射線応答を明らかにすることを目的としている。 当初の計画であるCAFの実験的な作製を試みたものの、結果としてCAFを分離することができなかったため、放射線により誘導される細胞老化とこれに伴う液性因子分泌形質の変化に着目し以降の研究を進めた。初代培養のマウス胎子線維芽細胞 (MEF)にX線照射を行うと、細胞老化の誘導および細胞内活性酸素種 (ROS)レベルの上昇が観察された。そこでROS産生酵素であるNADPHオキシダーゼ (NOX)の6つのアイソフォームの発現を解析すると、これらのうちNOX4の発現がX線照射によって上昇した。またNOX4の阻害によりX線照射後のROS産生が抑制されたことから、NOX4はX線照射後のROS産生を促進することが示唆された。その一方で、NOX4の欠損によって照射後の細胞老化の誘導に影響がなかったことから、NOX4は放射線による細胞老化の誘導に必須ではないことが明らかとなった。さらに、X線照射を受けたMEFの条件培地に対するヒトリンパ芽球U937細胞の遊走はMEFのNOX4を阻害することにより減少した。老化状態にある細胞は種々の液性因子を分泌する(老化関連分泌形質)ことから、NOX4が老化関連分泌形質に与える影響を明らかにするため、X線照射を行った野生型およびNOX4欠損型MEFにおける数種類のケモカイン発現を解析したところ、NOX4欠損型MEFで発現が低下しているケモカインが存在していた。これらの結果より、NOX4は老化関連分泌形質の調節を介して炎症細胞を動員し、放射線照射による組織の損傷や炎症の増悪に寄与することが示唆された。
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