研究課題
動物のほとんどすべて細胞が持つ一次繊毛は、細胞膜から突出した一本の毛のようなオルガネラである。一次繊毛には様々な受容体やシグナル伝達に関与するタンパク質が存在しており、その異常は嚢胞腎や肥満などを伴う繊毛病を引き起こす。しかし、これらのタンパク質の繊毛内や繊毛への輸送のメカニズムはまだ明らかになっていない。輸送メカニズムの解明が困難である理由の1つとして、一次繊毛内の輸送を担うIFT複合体が多数の大きなサブユニットから構成されていることが挙げられる。このようなタンパク質複合体の相互作用解析は困難を伴うことが多い。そこで私たちは共免疫沈降法をベースにして、観るだけでわかるタンパク質間相互作用解析法(VIPアッセイ)を開発し、これまでに繊毛内のタンパク質複合体(IFT-A、IFT-B、BBSome複合体)の構築様式を解明した。当該年度では、VIPアッセイを活用して、IFT-B複合体と相互作用することが示唆されていたArl13bがIFT46-IFT56の二量体と相互作用することを見出した。さらに、IFT-B複合体と相互作用するために必要なArl13bの領域を同定した。そこで、Arl13bノックアウト細胞株を樹立したところ、その表現型がINPP5Eノックアウト細胞のものと同様であることを見出した。さらに、Arl13bノックアウト細胞ではINPP5Eが繊毛に局在せず、その表現型はINPP5Eと相互作用できないArl13bの変異体ではレスキューされないことから、Arl13bはINPP5Eと相互作用して繊毛へ輸送していることがわかった。しかし、これらの表現型についてIFT-B複合体とArl13bの相互作用は関与しなかった。
2: おおむね順調に進展している
従来のタンパク質間相互作用解析法で1対2のような複雑な相互作用を発見することは難しい。しかし、VIPアッセイを開発してからその方法も洗練され、1対多や多対多の相互作用を発見するための手順も確立しつつあった。このような背景から、Arl13bとIFT46-IFT56二量体という1対2の相互作用を迅速に発見することができた。現段階でArl13bとIFT-B複合体の相互作用の生理的な意義について検討できていることから、本研究課題はおおむね順調に進展していると考える。
平成29年度には、以下のことを明らかにする。1.Arl13bとIFT-B複合体の相互作用の生理的な意義を明らかにする。Arl13bは低分子量GTPaseの一種であり、活性型と不活性型をサイクルする。しかし、IFT-B複合体はArl13bの活性化状態を問わずに相互作用するので、繊毛内においてIFT-B複合体やArl13bは常に相互作用している可能性が考えられる。そこで、Arl13bノックアウト細胞と野生型細胞についてIFT-B複合体の動きの違いについて検討する。2.IFT-B複合体と相互作用する他のタンパク質を探索する。近年、繊毛内のプロテオーム解析やインタラクトーム解析がいくつか報告されている。それらのデータを参考にして、VIPアッセイによって相互作用を確かめることで、IFT-B複合体の機能を調節する機構について調べる。
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