昨年度中に、本研究課題であるパーサルファイド検出プローブの開発は完了し、研究成果が論文に採択された。そこで本年度は、新たに代謝経路の1つである脂肪酸β酸化をターゲットとした蛍光プローブ開発に取り組んだ。近年、脂肪酸を分解しアセチルCoAなどのエネルギーを供給する脂肪酸β酸化が、一部のガン細胞において解糖系以上の主要なエネルギー源になるなど注目されている。一方、β酸化活性の検出法はメタボローム解析が主流となっており、蛍光プローブを用いた報告例は全くないのが現状である。その原因として、酵素の基質選択性が高いため複数のβ酸化関連酵素の基質となる分子デザインが困難であること、また代謝反応により蛍光特性が変化するセンシング機構を組み込むことが困難であることが挙げられる。そこで、本研究ではそのような現状を打破するべく、脂肪酸β酸化関連酵素の基質となるturn-ON型蛍光プローブの開発を行った。蛍光色素に脂肪酸を導入した蛍光OFFの蛍光プローブを多数合成し、脂肪酸β酸化の基質となる蛍光プローブの開発および構造最適化を行った結果、β酸化を受けて蛍光ONとなる蛍光プローブを見出した。さらにHepG2細胞において蛍光イメージングを行った結果、細胞内から明るい蛍光が観察された。この蛍光は種々の阻害剤実験において抑制されることから、細胞内β酸化活性を迅速に検出できることが明らかとなった。さらに、本蛍光プローブは洗浄操作を行うことなく高いS/N比で蛍光イメージングすることが可能であった。本蛍光プローブを用いることで細胞種による代謝活性の違いや特徴を簡便にモニタリングすることが可能となり、今後、代謝メカニズムの新たな知見を得られることが期待される。
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