研究課題/領域番号 |
16J03906
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
芳之内 結加 愛媛大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 内分泌かく乱 / バイカルアザラシ / エストロゲン受容体 / CRISPR-Cas9 |
研究実績の概要 |
今年度は、「エストロゲンと環境汚染物質複合曝露によるエストロゲン受容体シグナル伝達系かく乱の分子メカニズム解明」に取り組んだ。COS-1 細胞は内因性のERαが発現していないため、in vitro Reporter gene assayで外因性のERを遺伝子導入し、活性化能を評価するには適している一方で、ER と相互作用する転写因子の発現量が低く、生物の実際のシグナル 伝達系を再現することは困難であることが予想される。MCF-7細胞はヒトの乳腺癌由来の細胞で、内因性の hERαが発現している。そこで、本研究では CRISPR-Cas9システム(ゲノム中で任意の領域を切断できる遺伝子改変ツール)を用いてhERα ノックアウトMCF-7細胞株の作製を試みた。まず始めに Neon Transfection System を用い、MCF-7細胞に最適な導入効率を検討した。導入効率 を視覚的に観察するために、pcDNA6.2 em-GFP ベクターを様々なプログラムで導入し、蛍光顕微鏡を用いてGFP発現量を比較した。その結果、Program 18(Pulse Voltage 950: Pulse Width 30; Pulse no. 2)の条件が適していることが明らかとなった。 次に、「水酸化PCBsによるアザラシおよびイヌ エストロゲン受容体転写活性化能の評価」については、17 種のOH-PCBs のER転写活性化能を測定し、多くのOH-PCBsが両種のERα・ERβを活性化することがわかった。概して、アザラシERsの方がイヌERsよりも高い誘導倍率 を示した。また、両種ともOH 基置換位置がpara 位 > meta 位 > ortho 位の順で高活性を示し、リガンド選択性は両種で保存されていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
hERα ノックアウトMCF-7細胞株の作製について、gRNAを3種類作製し、Cleavage assay で目的のゲノムの切断を確認したところ、T2 の gRNA を遺伝子導入した細胞において、目的の領域の切断を確認することが出来た。その後、シングルセルクロニーングを行い、サンプルを SDS-PAGE によっ てタンパク質を分離し、iBlot Dry Blotting System を用いてメンブレンへ転写を行い、ウェスタンブロッティング (WB)によって全てのサンプルで MCF-7 内因性の hERα が検出できることを確認した。そのため、もう一度ノックアウトを試みる必要がある。シングルセルクローニングは、1ヶ月~2ヶ月ほど時間がかかるため、当初の予定よりも実験が遅れた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度はまず、COS-1細胞で検討した免疫沈降法を用いて、エストロゲン受容体(ERs)と相互作用するタンパク質を抽出し、MALDI-TOF-MSを用 いてタンパク質を定量する。MCF-7細胞のヒトERα(hERα)ノックアウト細胞株の作成については、遺伝子切断効率が向上した新しいTrueCutTM Cas9 Protein v2(invitrogen)を用いて再び作製を試みる予定である。その後、 COS-1細胞と同様の試験を行い、タンパク質の定量を行う。また、分子シミュレーションソフトMolecu lar Operating Environm ent(CCG社)を使用してERの3Dホモロジーモデルを構築し、化合物が結合した状態とその時のERの立体構造をin silico 動力学 シミュレーションで予測する。 エストロゲン受容体の種間差比較に関しては、 ERαにおいてアザラシはイヌより高感受性である傾向がみられ、ERリガンド結合領域のアミノ酸残基が種間で異なることに起因することが推察された。そこで 、in silicoシミュレーションでERα変異体を作成し、両種の結合親和性を比較した後、in vitro系で実際の変異体を作製し、 原因となるアミノ酸を確認する試験を行う予定である。
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