研究実績の概要 |
背景:本研究では植物幹細胞の一つである維管束幹細胞に着目し、維管束幹細胞から木部細胞と篩部細胞への分化の過程に焦点を当てた。中でも、知見の少ない篩部分化について主に検討し、維管束幹細胞のふるまいについて考察した。 方法:シロイヌナズナの葉を用いた篩部細胞の分化誘導系(Kondo et al., 2016)。この誘導系では木部細胞と篩部細胞が同時に葉肉細胞から維管束幹細胞を介して形成される。 結果: ①篩部分化におけるマスタ転写因子APLの解析:APL遺伝子の変異体を分化誘導系に用いて誘導前と誘導後のマイクロアレイを行い、WT と比較することにより、APLの制御を受けない、新な早期篩部関連遺伝子NAC020の同定に成功した。この遺伝子の過剰発現体においてAPLの発現が一部阻害されることを明らかにし、分化運命決定段階で作用していると考察した。(Kondo et al., 2016) ②分化誘導系における維管束形成パターン解析:木部細胞を強く染色する化合物BF-170と篩部のマーカーを用いて子葉の三次元構造を観察した。その結果、子葉の向軸側に木部、背軸側に篩部がたくさん形成されることを初めて見つけた。これは葉の葉脈のパターンと一致しており、子葉の極性が維管束形成に関与しているのではないかと推測した。そこで、葉の背軸側に発現するYAB3因子の変異体を用いて解析した結果、背軸側にも木部がたくさん形成されることを発見した。また、胚軸の二次成長においても、YAB3は篩部分化を促進し、木部分化を抑制していることを見出した。(Nurani et al., 2020) 今後の展望: 葉の極性がどのように維管束のパターン形成に関わるかを調べるために、葉の向軸側のと背軸側をレーザーキャプチャーマイクロダイセクションにより分離し、トランスクリプトーム解析を行った。今後はその詳細についてを解析する必要がある。
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